祇園祭と町衆




鉾が9基に、山が23基

祇園祭である。ほぼ50年の人生のうち、京都市に住んでいた期間が通算で11年ある。が、この間に祇園祭はまったく見ていない。近寄りさえもしなかったというのが正直なところ。ただでさえ暑い京都の夏なのに、どうして人いきれでむんむんするような雑踏の中に行かなければならないのか。意味がわからなかったのだ。


初めて勤めた会社は京都にあったから、祇園祭の頃には飲み会などもあった。が、徹底的に避けていた。なんで、わざわざ人ごみでうんざりする雑踏に出かけていって、祇園祭価格(=普段より割り増しになる)まで払って、やな思いをしなきゃならんのだと。


それやったら馴染みの玉突き屋で遊んでた方がよっぽど有意義な時間の過ごし方になるし、飯だって祭りの喧噪などまったく関係ない北白川で食べた方がうまいに決まってる……。とまあ、ちょっとひねくれていたのかもしれませんね。


ところが京都に引っ越してきて、どうしても祭りとは無関係ではいられなくなった。ゴミ出し一つからして祭りの影響を受けるのだ。だって狭い道にど〜んと鉾が建ったりするわけで、当然ゴミ収集車が走れる道は極めて限られてしまう。いつものゴミスポットまで取りにきてくれないのだ。


まあ、ゴミ問題なら何とか目をつぶってもよいが、後から後から湧いてくるような人だけはどうしようもない。いつもなら2分で行けるコンビニにたどり着くのに3倍ぐらい時間がかかってしまう。その間、いったいどんだけの人をかき分けて進まなければならないことか。


これが祇園祭である。大都市圏の街中おそらく3キロ四方圏内ぐらいで大規模な交通規制(バスでさえも止めてしまう)を数日やる。ある意味とんでもない祭りだと言えないこともない。


とんでもないついでに言えば、祭りが始まる2週間ほど前には、狭い路地にやたらいかついクルマが並んだこともあった。たいていが大阪3ナンバー(一部兵庫)・黒塗り・スモークガラスと三拍子揃えば、これはもうひと目でわかるそちらさん関係じゃないか。


いつも通り仕事場に向かって歩いていると、いつもは閉まっているビルの一階駐車場が空いていて、そこにパイプイスがギュッと詰め込まれている。なぜかイスは私が歩いている道に向かってセッティングされていて、そこには黒のダブルのスーツに派手な色のシャツ&グラサンといった出で立ちの方々が「あっついのぉ。うっざいのぉ」といった趣で表をにらんでいるのだ。


その方たちを仕切っているのが、町衆である。これがまた、おそらくは一筋縄ではいかない人たちなのだろう。なにしろ「こないだの戦はえらいこっでしたな」といえば、応仁の乱といった人たちである。礼儀作法しきたり躾には極めてうるさい。それだけでなく千年も都のあった地でとにもかくにも生き抜いてきたしたたかさを身につけた人たちでもある。ぽっと出のやっさんなどかなうべくはずもない知性を備えてもいるはずだ。


そう、この町衆の存在こそが祇園祭の肝である。近所の散髪屋さんで聞いた話では、鉾を飾るタペストリーは小さなものでも5000万円ほどするそうだ。京都府あるいは京都市からの補助は出るにせよ、町内での負担もそれなりのものが求められる。お金も絡んでいるというわけだ。


そして町衆がヤーサンたちを集めていたのは、屋台の場所決めである。自分たちの家の軒先に屋台を出させてやる代わりに、しっかりとショバ代を取るのだろう。そりゃ威厳がなければ相手はそうそう簡単にいうことを聞いたりしないだろう。


とはいえ町衆一人ひとりをみれば、たぶん普段その辺をうろうろしている好々爺たちなのだ。「暑おすな」「ほんま、ええお日照りで」みたいな会話を交わし、夕方ともなれば来客に「ぶぶづけ、どうどす」などと言葉をかけて相手の品性を見極めようとする。表面のにこやかさ、おっとりぐあいに騙されてはいけない。


その人たちは、軒を連ねひどい場合には壁越しに隣の物音が聞こえてくるような町家に代々住み、軒先の掃除競争を重ねる中で独特のコミュニティを築いてきた。そう思えば、やたら数が多い地蔵さんのどれ一つとしてないがしろにされているものはない。必ず誰かが手入れをしている。


そんなコミュニティが生きている街だからこそ、祇園祭のようなイベントを毎年開催し続けることができるのだろう。そしておそらく、祭りに訪れる人のうちの何割かは、鉾や山の周りに設えられた町内会の人たちのためのスペースで、コミュニティメンバーが楽しそうにしている様子にノスタルジアをかき立てられているに違いない。これが祇園祭集客力の源なのかもしれない。



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昨日のI/O

In:
まぐまぐ広報さんインタビュー
Out:
沖縄美ら海水族館館長さまインタビュー原稿
島根大学医学部取材原稿


昨日の稽古:

・基本稽古
拳立て、腹筋、スクワット