キリン&サントリー統合の意味


3兆8000億円

ガリバー企業が登場する。国内食品最大手キリンと、2位のサントリー経営統合をめざすという。独占禁止法に引っ掛かる恐れがあるから、まだ完全に決まった話ではない。が、仮に統合成立となれば、ビール、ウイスキー、ワイン、清涼飲料水などのジャンルでは断トツのシェア独占企業となる。


3兆8000億円といえば、ビール業界ではいま世界トップのアンハイザー・ブッシュ・インペブさえ上回ってしまう。食品メーカーの総合順位で見ても世界で堂々の第5位。この影響をモロに受けるのがアサヒとサッポロである。今さら両社が経営統合に走ったところで、ごまめの歯ぎしりにしかならない。


サッポロはキリン・サントリー連合に入るぐらいしか選択肢はないのではないか。一方アサヒは、海外メーカーと手を組んでの生き残りをめざすことになるのだろう。困るのはこうした直接競合企業だけではないはずだ。キリン、サントリーの広告を仕切っていたところ、おそらくは電通博報堂にも相当大きな影響が出るんじゃないだろうか。


日本の広告業界は一業種一社といった厳格な縛りはない。発注側もブランドごとに使い分けているので、いきなり電博どちらかがバッサリ切られるようなことはないにしても、相当シビアな状況に陥ることは間違いないはずだ。


といった統合の余波は、さておき。何よりも考えるべきは、なぜいま両社が統合に走ったのか。その理由だろう。


そのヒントが京都新聞の社説に書かれていた。

両社の存立基盤である国内市場は現在は好調だが、少子高齢化で将来的には縮小が避けられない。有力大手が組む強者連合で国内市場の変化に柔軟に対応しながら、成長が見込める海外市場を共同開拓して、国際競争で生き残りをめざす戦略だ(京都新聞2009年7月15日朝刊7面)


ポイントは最後の一行。両社は「国際競争で生き残りをめざす戦略」をとった。ということは、国際競争でしか生き残りは難しいと考えていることになる。逆に考えれば、国内を相手にしていては生き残れない、ことになる。当然だと思う。


これから先、国内は人口がどんどん減るからだ。人口は人の口と書く。口の数が減るということは、口から入るものに対する需要も減る。すなわち食品、飲料である。さらに胃袋の数も減ると考えれば、外食産業だって今の売上を維持していくのは至難の業だろう。


いやいや人体の数も減るのだから、服に対する需要も今と同じではあり得ないし、家がいま以上に必要となる可能性はゼロではないか。その人を運ぶ道具だって、そんなには要らないだろう。と考えてみれば、最近の自動車メーカーの話題が、海外移転だとか海外での積極的な投資だとかいった話が多かったことに気がつく。


将来のことを研究している企業ほど、日本市場の将来に対する危機感(絶望感と言ってもいいのかもしれない)は高い。人口が減って行くのは、日本では確定した未来である。これは今さら騒ぎ立てることではなく、もうずっと前から決まっていたことなのだ。


が、わかっていた危機に対する認識がもっとも甘かった業界が、いま深刻なダメージを受け始めている。大学である。二年ぐらい前から大学が潰れ始めている。大学が潰れるなんてことは、これまでになかったのだ。しかし、現実問題として経営を維持できない大学が出始めている。


これまた当たり前のことで、少子化の影響がモロに出ているだけのこと。すなわち学生が集まらないのだ。すでに日本の大学は全入どころか、今や大学入学者の半分以上が入試を受けていないのが実情だ。いわゆる推薦、AOなど入試前の囲い込み合戦が激化している。


早い話が学生の取り合いをしているわけだ。かと思えば「我が校には地方試験をいれれば7回も受験チャンスがあります」なんてことを売り物にしている大学もある。そうでもしないと大学経営を維持して行くに足るだけの学生を集めることができない。


大学業界にいま起こりつつあるのと同じことが今後、エンドユーザーを相手にしたあらゆるビジネスに起こる可能性が高い。繰り返しになるけれども、人口が減っていくというのはそういうことである。となれば、当然連鎖反応も起こってくる。


エンドユーザーを相手にビジネスしている企業を相手にビジネスしている企業にも(ややこしい話だけれど)、当然影響は出る。もはや日本だけでビジネスをしているのでは、先行きの成長は愚か、現状維持さえ難しい。


そんな危機意識が、今回の唐突な、キリンとサントリーの統合劇の背景となっているのだろう。個人的には、サントリーはモルツが大好きだし、最近出た「ザ・ストレート」もなかなかいける。キリンだって決して嫌いじゃないから、統合してもブランドが減らなければ取り立てて困ることはないんだけれど。


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ホームページ、リニューアルしました。
ぜひ、一度見てやってください。
http://www.com-lab.org/
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昨日のI/O

In:
『中学生からの哲学「超」入門』竹田青嗣
Out:
島根大学医学部内尾教授インタビューメモ


昨日の稽古:

拳立て・腹筋