野菜工場は日本の農業を救うか


今後3年間で3倍、150工場をめざす


経産省は「植物工場」と呼んでいるが、野菜工場である。農水省ではなく経産省が、というところが微妙だが、政府が普及を後押ししようとしていることは間違いない。


野菜工場には二種類ある。完全密閉型、空調を整え人工光で野菜を育てるタイプと日光を利用するタイプだ。日本はほとんど完全密閉型で、中でも一番規模の大きいのが京都のベンチャー企業・フェアリーエンジェル社が福井県に建てた工場だ(→ http://www.insightnow.jp/article/3741)。


と書いてきて、少し前の日経産業新聞に『「野菜工場」ゼネコン争奪戦』という記事があったことを思い出した。政府の後押しで3年間に150も工場を造るということは、ゼネコンにとってはそれだけ仕事が生まれるということだ。ただでさえ仕事が減っているのだから、ゼネコンがよってたかってくるのも無理はない。


でも、それなら国交省案件となるのだろうけれど、なぜか経産省である。これは未だに不思議だ。とはいえ「野菜工場」の普及は、これからの日本にとっての、ささやかではあるけれども確実な希望の一つだと思う。


ことは食糧自給率の問題である。日本の食糧自給がすでに壊滅的な状況にあることは、誰でもご存じの通り。農水省の公表データによれば45%ぐらいだったと思うが、実際はそんなレベルじゃない。


飼料が輸入に頼っていることを考えれば、日本は家畜も大半が実質的には輸入と考えるべきだ。ところが今のデータでは、日本で飼われている家畜は自給分として計算されている。家畜の中には鶏が生む卵も含まれて然るべきところ。この分までさっ引けば自給率はさらに落ちる。


ここで考えるべきは、なぜ日本の食糧自給率がここまで低くなってしまったか、である。原因は極めて明快単純、農業を生業とする人が減っているからだ。戦後は日本でも自給率が100%近い時期があったはずだ(もしかしたらもう少し低かったかもしれない)。が、高度経済成長が始まると、農家の人たちは農業を捨て、土地を放棄し、都会へと向かった。


そしていま、農業に従事しているのはお年寄りばかりである。農業を専業で営んでいる人の中に40代以下の人が一体どれだけいるのだろうか。仮にわずかながらいたとしても、彼らが次の世代に農業を継がせようとは決して考えないだろう。それぐらい農作業は厳しく、対価は低い。割に合わない仕事なのだ。


このトレンドが続くとどうなるか。早ければあと20年もすれば、日本から農業の担い手はきれいさっぱり消えてしまう。こうした状況を防ぐ手段の一つが野菜工場なのだ。野菜工場での作業を農業と呼んでいいものかどうか、言葉の定義はここでは判断留保とする。


それはともかくとして、作業の質が農業と野菜工場では根本的に異なってくることは間違いない。まず単純に作業空間に屋内・屋外の違いがある。野菜工場はもちろん室内で完全空調である。工場内の湿度、温度は年間を通じて一定にコントロールされている。それは野菜の生育によいことが前提となっており、すなわち人間にとっても決して不快な環境ではない。


しかも野菜工場は、少なくとも取材したフェアリーエンジェル社の場合は完全9to5である。これも農業とはいささか趣が違う。そして作業のきつさは農業の比ではない。めちゃくちゃ楽といってしまうと叱られるだろうけれど、農業のようなきつさはおそらくない。


クリーンルームの中は緑あふれる空間で、精神衛生上もいいだろう。こうした事実が何を意味するのか。今更農業従事者を増やすことは難しくとも、野菜工場なら働き手を確保できる可能性があるということだ。給与水準がどれぐらいのレベルになるのかはわからないが、少なくとも今の農業専業従事者より低い、ということはないだろう。しかも、人件費にどれだけかけるかは工場の生産性、市場での販売価格などによる。給料を高く設定する可能性はある。


従来型の農業に関しては、企業の参入が相次いでいる。あのワタミなどは、今後の主力事業は外食ではなく農業だと渡邊美樹会長自らが断言されていたぐらいだ。こちらは技術革新がなかなか難しいだろうが、企業が取り組むことで効率化は図れる可能性がある。


方や野菜工場が増えて行けば、どうなるか。この工場は産業廃棄物を出さないから、住宅地の中にだって作ることができる。厳密には日照権など建屋の設計は考える必要があるが、極端な話、どこにでも作れるといっていい。それこそ東大阪などで廃業した工場を居抜きで使うことも選択肢の一つとなる。


今のところ露地物に比べれば、まだ若干販売価格は高めである。が、工場で作られた野菜は洗う必要がない。虫のつくはずがないクリーンルームで栽培されるから農薬も一切使わない。ということは外食産業にとっては洗う手間(=コスト)が省けるわけで、今後大量購入に踏み切る可能性がある。そうなれば、量産効果が出てコストダウンにつながることも考えられるだろう。


そして、いうまでもなく野菜工場のノウハウは、今後の世界全体で役立つノウハウである。日本の知財が一つ増えるわけで、これはこれですばらしい。という深謀熟慮を経産省の知恵者が働かせた結果の普及策であることを祈る。



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昨日のI/O

In:
『甦る怪物』佐藤優
デジタルサイネージ・インタビュー
Out:
セルバンク社北條社長インタビュー記事
K社広報ご担当者さま取材記事

昨日の稽古:

・腹筋、拳立て、カーツトレーニン