誤導質問はBtoBで使えるか
禁断の質問技法がある。その名を誤導質問という。
誤導質問というのは、質問の前提に誤った事実を挿入することによって、自分の意図した証言を引き出そうというものです。誤導質問とは、たとえば次のような質問です。
弁護士「この商品がなぜ評判がよいのか、証人は知っていますか」
相手弁護士「異議あり! 誤導質問です。この商品の評判がよいことは証明されていません。それ自体が本件裁判の争点となっているものです」
(谷原誠『人を動かす質問力』、角川oneテーマ21、2009年、114ページ)
実に巧妙に組み立てられた質問だ。うっかりこの質問に対してYesと答えてしまえば、そもそもの争点のはずの評判の良さを認めることになる。そして恐ろしいのは、仮にNoと答えても、同じく評判の良さは認めてしまうこと。つまりYes、Noいずれで答えても、質問した弁護士は意図通りの答えを得ることができるのだ。
その理由は、おわかりだろう。すなわち質問文自体が「この商品は評判がよい」ことを前提条件としていて、その条件を認めた上で理由をしっているかどうかが問われているからだ。こういう質問方法を誤導質問というそうだ。前述の本を読んで始めて知った。
が、これっていわゆるセールス話法でも使われているトークの一つだと思う。たとえばこんな具合に。
「このクルマはハイブリッドカーで、これからの時代に求められているタイプですが、その理由をご存じですか」と聞かれたら、どう答えるか。やはりYes、Noのいずれで答えても、ハイブリッドカーがこれからの時代に求められているクルマであることは認めてしまうことになる。その次にセールスマンが、どんなトークを繰り出してくるかは想像がつくだろう。
こちらは少なくとも、ハイブリッドカーがこれからの時代に求められるクルマであることは認めてしまっているのだ。であるなら、あとは条件闘争をするしかない。確かにそんな気持ちにさせてしまうのが、谷原氏の言うところの誤導質問の威力なのだろう。いわゆるBtoCの局面では使えるトークの一つなのだろう。
が、これが果たしてBtoBマーケティングでも同じように使えるかというと、決してそんなことはないはず。これこそがBtoBの難儀なところである。つまりBtoCならとにかく目の前にいる相手が基本的には購買決定者である。だから、その人の気持ちさえうまくコントロール(これを誤導というのだろう)できればよい。
極端な話、別に誤導にこだわることもない。なだめてすかして脅して泣き落としてと、相手次第でありとあらゆる手練手管を使えばいいのだ。どんな駆け引きをしようとも、目の前の人さえ「うん、買うよ」と言わせてしまえば、それで商談はめでたしめでたしで終わるからだ。
ところがBtoBだと、そうはいかない。仮に目の前の担当者が「よっしゃ」と納得したとしよう。では、その後どういうプロセスを経て相手企業内での意志決定が行われるだろうか。もちろん取引の金額、担当者のポジションによって条件は変わってくる。しかし担当者決済でない限りは、必ずその案件は他の人の目に触れることになるはずだ。
仮に誤導質問を使っていたら、その時点でアウトとなる。最悪の場合は、そうしたいささか悪質なトークを使う業者は出入り禁止を言い渡されるリスクもある。さらに誤導質問に引っかかってしまった相手側担当者が社内で、何らかのおとがめを受けることだって十分考えられるだろう。
だから少なくともBtoBで誤導質問は使うべきではない。谷原弁護士だって、そんなことは意図されていないはずだ。あくまでも裁判という特殊な場に限り、しかも時と場合によっては強力な威力を発するのが誤導質問である。
では、BtoBではどのような質問が、最終的に功を奏するのだろうか。しつこいようだけれど、まず相手の『不』を徹底的に探ること。スタートはここにしかない。現状に対する不満足な点イコール改善課題である。ただし『不』を聴き出せたからと言って、それだけでビジネスが成立するなどと安直には考えない方がいい。
そのレベルの『不』なら、相手だってわかっているのだ。顕在化している問題に対する意識は、相手だって相当に高いのだ。考えるべきは、相手が口に出した『不』のさらに底に潜んでいるものについて。
たとえば「検品に時間がかかって仕方がないんだよ」と言われたときに「じゃあ、検品をしているセンサをもっと精度の高いものに換えませんか」ではなく、「検品のタイミングを変えてはどうでしょう」とか「こうすれば検品しないでもいいのでは」という対案を出せるかどうか。
そんな案をどうやったら思いつくか。といえば、これはやはりクライアントから徹底的に話を聴かせてもらい、現場を観察するしかないのだ。すなわち、これがキーエンス流・超収益の秘密でもある。
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J社さま取材記事