電車の中のマナーの世代間連関


老人、中年そして高校生とあまりにもマナーの悪い3人と一緒になった。


最初にびっくりさせてくれたのは、中年だ。何に驚いたのか。電車のホームでペットボトルのお茶を口に含み、うがいをして線路にベッとはき出す姿にである。もうすぐこの世に生まれて50年になるが、これは初めて見た。


お茶を飲んでうがいをする人は過去にも見たことがある。が、駅のホームでうがいをし、口の中をすすぎ終わったお茶を線路にブワッと大量に吐き捨てるような人は見たことがない。その人と同じ電車に乗ることになった。その座り方がまた、なんとも無残である。


尻の位置がシートの真ん中あたりにある。そのために足はやたらと前に投げ出されることになる。勢い上体は斜めにならざるを得ない。そして必要以上に通路に投げ出された足を開く。簡単にいえばだらしないのだ。黒い大きなショルダーバッグを持っていて、それをドンとシートの上に置く。中から何やら紀要っぽい印刷物を取りだして読み始めた。


ところどころに付箋紙が貼ってある。中身がなんだかはわからないが、それなりに専門的なことが書いてあるのだろう。姿勢とは裏腹に読んでいる表情は真剣だ。やっていることと姿勢と呼んでいる姿のアンバランスが極めて印象的である。


と思っていると、隣に座っているおじいさんもたいがいであることに気づいた。まず座っている姿勢が、目の前の中年氏とほとんど変わらない。だらん、びろん、ぐったり、である。この人は緑色のブリーフケースとショッピングセンターのビニール袋をシートの上に置いている。これによりたっぷり一人分は座ることのできるスペースを荷物でふさいでいる。


やがて電車は郊外の駅に着き、乗り込む人が少しずつ増えてきた。まず中年氏の両横の席がふさがってきて、彼はどうしたか。とりあえずカバンを自分の方に近づけた。しかし、決してそれを膝の上にのせたり、床に置いたりはしない。あくまでもカバンは自分の横のシートの上。座り方は相変わらずで開いた足の間、早い話が股ぐらを時おりぐゎしぐゎし手で揉みしだいている。結構異様である。


私の隣のおじいさんは、まずカバンを膝の上にのせた。混んでいる車内にすこしだけ気を遣っているみたいだ。でも、ビニール袋は横に置いたままである。だから、その微妙なシートの空き具合に遠慮して誰も座ろうとはしない。


と次の駅で今度は高校生が一人、乗り込んできた。ちょうど前の席にいる中年氏の横、彼がカバンをおいているのと反対側がちょうど一人分座れるかどうか、といった空き具合である。そこに高校生君はすかさず無理矢理体を押し込んだ。中年氏はとても鬱陶しそうである。委細気にせず風の高校生君は制服をズリパンにしていて、前髪はすべて顔の前に垂らしている。耳にはイヤホンを突っ込んでいるのだが、そこから漏れてくる音がでかい。通路を挟んで向かい側にいるこちらにまで聞こえてくる。


中年氏、露骨にいやそうな顔をする。と、さらなる変化が次の駅で起こった。高校生君の隣、中年氏とは反対側の席が空いたのだ。すると目をつむって眠っていたかのように見えた高校生君は、すかさず足を思いっきり広げた。自分の横の空いた席には誰も座らせない、そんな意志を感じさせる足の開き方だ。そして、もう一段シートに浅く腰をかけ直し、つまり足を前に投げ出した。そして眠りなのか音楽に没頭しているのかわからないが、目を閉じてしまった。漏れてくる音が少し大きくなったように感じた。


中年氏はさらにいやな顔つきになりながらも、足でリズムを取ったりしていた。今思い返してみても、あれは、謎である。高校生君のイヤホンから漏れてくる音に合わせていたのかもしれない。


さて、このおじいさん、中年氏、高校生君に共通するのは、まず、その座り方である。そして、もう一点、共通する行動があった。電車に乗っている間に一回ずつ、ケータイで話をしたのだ。それも、ほとんど周りに人がいることをまったく気にしていない様子で、おぉお〜きな声で。


見事なまでに似ている老中青。もちろん、たまたま、の出来事である。しかし、隣のおじいさんの息子世代がちょうど中年氏であり、彼の息子が高校生君といわれれば、なるほどそうした世代連関はあってもおかしくないとも思う。とても不思議な昼下がりの車内風景だった。


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昨日のI/O

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『表徴の帝国』ロラン・バルト
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