次は何をぶっ壊す



308:119


事前の予想通り、民主党が圧勝した。前回の郵政選挙では、自民党が圧勝している。前回の選挙と今回、共通するのは「ぶっ壊す」こと。ちょっと危険なトレンドがあるように思うのだが、どうだろうか。


自民党をぶっ壊す」と極めて刺激的なスローガンを、小泉前首相はぶち上げた。劇場型ともいわれるドラマチックな手法を選挙戦に持ち込み、選挙戦そのものをこれまでになく盛り上げた。そして各地に刺客を送り込む。刺客には新鮮な顔ぶれを揃え、あるいは女性を数多く起用し、いかにも旧態依然の(プラスおそらくは悪者イメージの)郵政民営化反対議員をことごとく打ち破っていった。


もう記憶に薄れつつある人も多いかもしれないが、無所属とはいいながら自民党はあのホリエモンでさえ担ぎ出していたのだ。あのとき武部さんとホリエモンが手に手を取って「亀井さんをやっつけるぞう」とやっていたシーンは、未だに目に焼き付いている。そこまでやるか、そんな印象が強く残った。


結果は自民党の圧勝。確かに郵政民営化に反対した議員たちは軒並み落選し、その哀れな姿を見て溜飲を下げた人が多かったのではないか。「これまで、さんざんえらそうにしやがって、ざまあみろ」。そんな意識は確かにあったように思う。


しかし、結果を冷静に判断すればどうなるのか。自民党勢力はぶっ壊れるどころか圧倒的に強くなったのだ。これを小泉氏が計算していたのなら、まさに稀代の策士である。


戦略家・小泉氏は自らの絶頂期をキープしたまま、おそらくは計画通りに禅譲を果たす。ここまでは彼の読み通りの推移だったのだろう。中国との関係では一歩も引かず、といって北朝鮮とは交渉モードを維持して、アメリカとは超絶友好。海外との付き合い方も白黒はっきりしていてわかりやすい。ここまではよかったのだ。


ちなみに小泉さんの負の遺産と言われる格差問題については、別の見方もある、ということだけを指摘しておきたい。長期的なトレンドを見たときに、格差傾向は決して小泉さんの次代に始まったモノでも、激化したモノでもないという指摘がある(→ http://www.amazon.co.jp/%E4%B8%8D%E9%80%8F%E6%98%8E%E3%81%AA%E6%99%82%E4%BB%A3%E3%82%92%E8%A6%8B%E6%8A%9C%E3%81%8F%E3%80%8C%E7%B5%B1%E8%A8%88%E6%80%9D%E8%80%83%E5%8A%9B%E3%80%8D-%E7%A5%9E%E6%B0%B8-%E6%AD%A3%E5%8D%9A/dp/4887596995/ref=sr_1_2?ie=UTF8&s=books&qid=1251684711&sr=8-2


ところが、後任が見事なまでにずっこける。まず後継指名した安倍氏が首相として信じられないような失態を演じる。国家の首相がその職を投げ出して辞めてしまったのだ。本当にびっくりした方も多かったのではないか。


前例ができると安心して後に続く人も出てくる。冷静沈着ぶりで鳴らした福田氏も安倍氏に習い、形勢如何ともし難しと見るや首相の座を放り投げた。この時点で強く思ったことが一つ。小泉氏の意図通りなのかどうかは別として、自民党はすでにぶっ壊れ始めていたのだ。でなければ、あり得ない職務放棄ではないか。


そして登場した麻生首相の資質については、あえて一言だけ。人を動かす力は、言葉から生まれるのだ。その言葉に力がない人は、人を動かすこともできない。それだけである。


そして自民党は完全にぶっ壊れた。今回の選挙結果は、事前のマスコミのあおりが効いているのだと思う。前回同様、あおり方とあおられて動いた結果がとてもよく似ている。


前回は、旧態依然とした体質の郵政民営反対派をぶっ壊せ、である。
今回は、死に体なのに権力にしがみつり自民党をぶっ壊せ、である。


ぶっ壊すことに人は基本的に心地よさを感じるのだ。しかも、マスコミの後押しもあって、何となくぶっ壊す自分が正義の立場にあるように感じることもできる。


もちろん自民党が数々の過ちを犯してきたことは否定できない。現在の社会格差、教育格差も自民党政権の元で生まれた現実だ。だから自民党には責任がある。ぶっ壊されても文句は言えないだろう。しかし大切なのは、ただぶっ壊すことではないはずだ。


言うまでもなく「ぶっ壊した」後には、創造がなければならない。今回の選挙で、圧倒的な勝利を収めた民主党がどんな創造劇を見せてくれるのか。まずは、そこに注目することになる。


鳩山(おそらくは新首相)氏が選挙直前に公開した論文「A New Path for Japan」が一部で話題となっている(→ http://mojix.org/2009/08/30/a_new_path_for_japan)。これが鳩山氏の精緻な思考の結果ではなく、選挙に勝てそうだという高揚感が一気に書かせたテキストであることを祈りたい。


国内政治については、政権政党が変わるのだから、大きな変更があって当然だと思う。今回の選挙で民主党に投票した多くの人が期待しているのは「変化」だろう。筆者もその一人だ。


しかしアメリカ・オバマ大統領も「Change」をスローガンに当選したが、アメリカの対外基本政策は変わっていないのではないか。確かに国債を買ってもらわなければならないから中国に対しては低姿勢に転じている。しかし、それはもっと根源的な「アメリカかくあるべし」というアイデンティティ(それは他者に対する原点となる態度だ)は変わっていないように思える。


このアイデンティティを日本は、あるいは鳩山新首相は、どう導いていくのか。ここが、これからの日本の焦点となるのではないか。どうがんばってみても、海外から食料、エネルギーを輸入しなければ生きていくことはできず、そのためには海外にモノを買ってもらわなければならない日本なのだから。

ぶっ壊すのは、もう終わりにしてもらいたい。強くそう願う。

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不透明な時代を見抜く「統計思考力」

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昨日のI/O

In:
『日本の歴史を読み直す』網野善彦
Out:
島根大学インタビューメモ


昨日の稽古: