世界はハトヤマをどう見ているか


COURRiER Japon ( クーリエ ジャポン ) 2009年 11月号 [雑誌]

COURRiER Japon ( クーリエ ジャポン ) 2009年 11月号 [雑誌]



このエントリーは、R+さんから送っていただいた献本『COURRiER Japon11月号』へのレビューです。


平均は星三つ


といってもミシュランの話ではない。鳩山新政権に対する世界のメディアの評価である。COURRiER Japon11月号の特集に『世界が採点するHATOYAMA』がある。世界各国の10誌が、それぞれのポイントでそれぞれの立場から品定めをしているわけだ。


これがおもしろい。


何がおもしろいかと言えば、まさにこれぞポジショントークの典型だから。つまりポジションによってこんなにも見方は異なることを、この特集は如実に示してくれている。と同時に、日本のマスコミからはまず得られない知見がここにはある。


最高の評価と最低の評価を比べてみよう。五つ星を付けてくれたのは韓国の全国紙「中央日報」だ。ポイントは政治哲学であり、タイトルは「日本の有権者のみなさんへ。ハトヤマを選んでくれてありがとう」となっている。


鳩山首相の何が、韓国記者には好ましく思えるのか。「友愛」である。鳩山首相朝鮮半島を友愛の対象としてみるなら「彼が夢見る東アジア共同体の2つの軸は日本と中国ですが、その2つの軸をつなぐ役割を韓国が果たすとき、東アジアの共同体はうまくまわりはじめる(COURRiER Japon11月号、P22より)」からだ。


さらに「鳩山首相が心の底から韓国に配慮し、東アジアの統合を願うのなら」韓国、日本、中国からなる東アジア共同体の事務局は韓国に設置するはずだとまで説く。鳩山首相の「友愛」思想を、自国に目一杯都合良く解釈するなら、こう読めるという見本のような記事だと思う。


従って、この記事から読み取るべきは、仮に記者の思い通りにならなかった場合、韓国は鳩山氏をどう見るか、である。あるいは鳩山氏の「友愛」概念の曖昧さが、今後引き起こしかねない誤解についても考えておく必要があるだろう。


「友愛」は非常に耳触りの良い言葉ではある。しかし誰に対して、どこまでの友愛を示すのか、何を提供するのか。こうした点をきちんと考えておかないと、とんでもないことになるリスクも抱えてもいるコンセプトが「友愛」なのだ。


一方では、わずかに星一つと厳しい評価を下してくれたのがアメリカの「ウォールストリートジャーナル」。こちらは組閣人事の観点から「鳩山内閣の顔ぶれを見る限り、日本経済が後退することは間違いない」と警告している。その真意は、日本経済の後退は、アメリカにとっては極めて迷惑な話というところだろう。


より正確に表現するなら「迷惑」どころの騒ぎではなく「深刻とか死活的な問題」と言うべきなのかもしれない。万が一、日本の経済状況が悪くなり、米国債を買い支えることができなくなったら、アメリカの財政破綻リスクは一気に高まる。それこそアメリカは二進も三進もいかなくなるのだ。


もっとも現在、米国債を世界でいちばんたくさん持っているのは中国である。だからこそガイトナー財務長官は、就任早々に中国を訪問した。中国の機嫌を損ねて、国債を売られでもしたらえらいことになるからだ。もちろん中国としても米国債を売れば自国にはマイナスとなるので、そうは簡単に大規模な売りをかけることはできない。そのあたりは大人の駆け引きである。


ときにガイトナー氏は訪中に際して日本をすっ飛ばした。もちろんいろいろと忙しかったのだろうが、日本はアメリカの言うことを黙って聞く国である。少なくともガイトナー訪中の5月時点ではそうだったのだから、あえて忙しい時間を割いてまで途中で日本に立ち寄る必要はないと考えたのだろう。


ところがアメリカの言いなりになってきた自民党は政権の座からすべり落ちてしまった。まさか鳩山民主党アメリカに正面切って反旗を翻すとまでは考えていないだろうが、経済状況が悪化すればこれまで通りには国債を引き受けてくれない恐れがある。それは絶対に困る。といったポジションから書かれた記事であるように思える。


さて、韓国とアメリカ。両極端の評価を下している二つの記事を見てわかるのは、当たり前のことだけれども、どちらの記事も、それぞれの視点から見て「鳩山政権は自国にとってどんなメリット/デメリットをもたらすのか」がクリアに追求されていること。これをしてポジショントークという。


日本のマスコミだけを見ていては、こうした海外の視点はまず伝わってこない。もちろん日本の例えばメジャー新聞は、各紙それぞれのポジションを持っている(のだろう)。が、そのポジションは、少なくとも個別の記事からは極めて曖昧にしか伝わってこない。これに比べれば、海外のメディアはよりポジションが明確である。


重要なのは一つのテーマについての、単純な良い悪いの判断ではなく、物事の評価には因って立つポジションによって、多面性があるということだ。そのことを知る上では『COURRiER Japon』のようなメディアは極めて有効だ。


個人的には、このハトヤマ特集ではイギリス『エコノミスト」の記事が、いかにもイギリス人らしいユーモアと諧謔精神がミックスされた大人の視点で書かれていておもしろかった。もっともイギリスからすれば、所詮は日本で何が起ころうとほとんど対岸の火事、ということでもあるのだろうけれど。


ちなみに、その記事のタイトルは次のようになっている。
『「ビジョンのない」経済政策はある意味”賢明”なのかもしれない』



昨日のI/O

In:
京都大学大学院農学研究科 小林准教授インタビュー
Out:
ANAホテル広報さん・インタビュー記事
ナノ社インタビューメモ
凄腕広報さんインタビューメモ


昨日の稽古:

・基本稽古、拳立て、腹筋、カーツスクワット