JALのババ抜きゲーム





1000億とか、6000億とか


とりあえず来年一月まで、きちんと飛行機を飛ばし続けるために必要なのが1000億円、仮に法的整理をするとしたら最低でも6000億円かかる。ちょっと前のGMみたいな破綻会社がJALだ。途方もなくえらいことになってる。だから年金減額に応じないOBが悪者扱いされて、今の社長以下役員さんたちも責任を問われて報酬カットである。


ちょっとおかしくはないか。


そりゃ確かに、今目の前に見える形での当事者は彼らだから、マスコミとしてはその人たちを取り上げるしかないのだろう。が、この間のマスコミ報道で、前の経営者に取材して話を聞いた、という記事を見かけた記憶がない。あるいは、そもそもなぜJALがこんな風になってしまったのか、がわからない。


今のJALは、過去に積み重ねられてきた失策のなれの果てだろう。不採算になることがわかっていても、地方空港に飛ばさざるを得なかったことが経営破綻の一因だといわれている。それなら、どういう経緯でその不採算路線の運行が始まったのか。誰かが(どこかの機関が)JALに働きかけて「飛行機を飛ばしてくれ」と圧力をかけたはずだ。


あるいは何も言われなくても、空港ができるのならJALが飛ばさなくては、というJAL社内での判断があったのかもしれない。そうだとしても誰かが(あるいは取締役会とかが)決断を下しているわけだ。もちろん、そのメンバーの中には後に、今の経営陣になった人もいるのかもしれない。


けれども、ずっと昔、例えば10年以上前ぐらいだろうか、に行われた経営判断に関しては、今の経営陣が関わっていた可能性は低いだろう。そしておそらく、10年前の経営陣なら今だってまだまだご健在なんじゃないんだろうか。そうした人たちに徹底的に取材してみたら、どうなんだろうか?


少なくともJALのOBなんて方たちは、一生懸命に飛行機をきちんと飛ばすことに生涯をかけてこられた人たちばかりではないのか。それは確かに一般感覚からすれば、現役時代には恵まれた給料を受け取っていたのかもしれないし、今問題になっている年金だって平均レベルからすれば高額なのかもしれない。でも、それはそう決まっていたわけだ。


もとより倒産してしまえば、年金受け取りなんて保証順位は低くなるわけで、それは仕方ないとしよう。しかし倒産しないのなら、約束通りの年金を受けるのは財産権で保証された権利だ。そこばかり責めるのは、ちょっとバランスを欠いた議論じゃないだろうか。


繰り返しになるけれど、結果には原因がある。いま見えているJALの惨状は過去の原因の結果である。もちろんただ一つの原因が現状を作り出したわけではなく(もしかしたら、最も責任を問われるべき人物がいるのかもしれないけれど)、複合的な要素が複雑に絡み合ってはいるのだろうけれど、そこを解きほぐして責任を問うことが必要なんじゃないだろうか。


そうでなければ「今やっていることが、後に迷惑をかけることになるかもしれないのはわかっているけれど、とりあえず自分が儲かればいいし、いま責任を問われないのならやってしまえ」的無責任さが、見過ごされてしまうことになる。そして恐ろしいことに、そうしたムーブメントは確実に伝播する。子どもたちも見ている。


悪いことをしても、とにかく見つからなければ何とかなるんだとか、とにかく自分が責任を問われないようにしてしまえば、過去のことは不問に付されるんだ、とか。これじゃまるでババ抜きゲームだ。どうして大マスコミは、そうした考え方は許さないぞ的視点でJAL問題を取り上げ、突っ込まないのだろう。


もしかしたら、そんな面倒なことをやりたいと考える記者など、もう一人も残ってないのかもしれない。あるいは過去の失敗をほじくり返して原因追及する癖を記者が付けたりすると、自分たちマスコミ自体にもいろいろ問題があることが発覚してしまうことを恐れているのかもしれない。


でも、確かにシーザーは「人は、見えるものでしか判断できない」と言ったけれども、今目に見えていない過去の原因を考えないと、また同じことを繰り返す。つまりJALの再生などあり得ない話だ。


逆にいえば、目に見えなくても人間には想像力があるし、確かな根拠を積み重ねて論理を組み立てる力があるのだ。それを使えば、なぜJALがこうなったのか。一つひとつの問題要因に対して、誰が、どんな決断を下したのか、それは誰の、どんな要請に基づいたものだったのかを類推することは可能なはず。


目の前に見える「叩きやすい」人だけを叩く、マスコミの話に乗っちゃ行けないと思う。そして心配なのはJALがいつの間にかババ抜きゲーム化して二進も三進もいかなくなったのと同じ状況に、日本国財政がなっているのではないかということ。大丈夫ですよね、鳩山さん、あなたはババ抜きゲームしているつもりはないでしょうね?



昨日のI/O

In:
谷川俊太郎の33の質問谷川俊太郎
Out:
Lang-8インタビュー記事

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