ザッポスの奇跡


ザッポスの奇跡 The Zappos Miracles―アマゾンが屈したザッポスの新流通戦略とは

ザッポスの奇跡 The Zappos Miracles―アマゾンが屈したザッポスの新流通戦略とは



年間売上高10億ドル


靴のネット通販を展開している企業ザッポスである。10億ドルといえば、ざっと900億円になる。これがどれぐらいの規模になるかといえば、少し古いデータになるが、「日本のオンライン販売ではアマゾン.co.jpが1500億円で首位、2位は650億円のベルメゾンネットである(出所:ビジネスチャンス2008年5月号「日本のECサイトBEST1000」→ http://diamond.jp/series/socialweb/10001/)」。


仮にその売上だけでいえば、日本ならネット通販第二位となるわけだ。今では衣料品も扱っているが、当初ザッポスは靴の販売からスタートした。さて、ここで少し自分が靴を買うときに、どうやっているかを振り返っていただきたい。たいていの人が靴は試し履きするはずだ。同じサイズでもメーカーによって微妙に大きさが違い、またデザインによって履き心地も変わってくる。履き心地を試さずに靴を買うことなどは、まずあり得ない。


ということは、これがそのままネット通販での最大の障壁となる。もしかしたら自分の足の写真を三次元的に撮って送ることで、フィットするかしないかを判断してもらえるようなソフトが今後、開発されるかもしれないけれど、今はそんなのない。だから買い手からすれば、ネットで靴を買うのは一種の賭けみたいなもの。「もし合わなかったらどうしよう?」という不安をぬぐい去ることができない。


だから、靴はネットで売りにくい商品だった。ザッポスが登場するまでは。逆に考えれば、靴のネット通販が難しいのなら、それだけこのドメインに手を出す企業が少ないともいえる。買い手の心理的ハードルを取り除くことさえできれば、勝てる確率は高い。と考えたのかどうかは不明だが、ザッポスは果敢にチャレンジした。


早ければ即日届くたちまちの配送システム、24時間365日返品自由でもちろん送料無料の制度、そしてとびっきり親切なコンタクトセンターを準備して。その結果が靴のネット通販ではダントツのナンバーワン企業となっている。本書はそうしたザッポス成功の仕組みと仕掛けを丁寧な取材に基づいて丹念に解き明かしていってくれる。例えば、次のようなザッポス語録をちりばめながら。


「お客さんは、『何をしてくれたか』は覚えていないかもしれない。でも、『どんな気持ちにさせてくれたか』は決して忘れない」
「普通の会社ならTV広告などマス・メディア広告に大枚をはたくところを、ザッポスではその道を選ばず、代わりに、顧客サービスに投資しているのです」
「コンタクトセンターの電話対応は、むしろ、またとないブランディング機会だと考えています。五分、あるいは十分間というまとまった時間を、顧客が、何にも邪魔されずに私たちの言うことに神経を集中して耳を傾けてくれる、そんなチャンスが他にありますか?」


そして極めつけのセリフがこれだ。
「顧客サービスをないがしろにする余裕は、僕たちにはない」


そうザッポスは靴の販売企業ではないのだ。
「ザッポスは、『たまたま販売業を営んでいるにすぎない』、サービス・カンパニーです」


こうしたザッポスのエッセンスを抽出しながら書かれた本書では第五章、第六章こそが著者のダイレクトメッセージだと思う。第五章では、これからの企業にとっていかに企業文化が大切かが丹念に説かれている。


ザッポス成功の最大の理由は、何よりもまず企業文化を大切に育てる経営者のビジョンがあったからだ。靴のネット通販という資本力さえあれば誰でもできるようなビジネスで、いかに差別化を図るのか。答えは企業文化にある。このモデルは、商品での差別化に悩む多くの企業にとって極めて有益な示唆となるはずだ。


さらに第六章ではザッポスを例に引きながら、企業文化を確実にはぐくむための方法論が解説されている。詳細は本書に当たっていただくとして、一点だけ紹介するなら、入り口の決定的な大切さ、ということになるだろう。


ザッポスには採用辞退ボーナスという制度がある。4週間続くトレーニング・プログラムの第一週目を終えた新入社員に対して、2000ドルの『採用辞退ボーナス』を提示する。ただ「お金のために」働きたいと思っている新入社員をあぶり出し、排除するための仕掛けである。


ここまでして入ってくる社員をふるいにかけるということは、そのためのふるい自体がどれほどきめ細かく考え抜かれているかの証ともいえるだろう。


日本風に表現するなら、まさに企業は人なりなのだ。ところが、この言葉の風化が今日本で、どれほど進んでいることか。逆に確固とした企業文化を持ち、その文化の中で働くことにともに生き甲斐を持てるパートナーが集まった人間集団が、どれほど強くなれるか。著者が何より訴えたいのは、このメッセージではないだろうか。


まだまだ相対的に見れば技術面で優位にある日本企業が今後、さらに厳しくなる競争環境の中で生き残るカギ「企業文化」の本質的な有り様を、本書は教えてくれる。「うちの商品は、どこと言ってそんなに代わり映えしないからなあ」と言い訳ばかりしている経営者はもとより、営業に携わる人たちすべてにも、一読をオススメする。


同書の著者・石塚しのぶさんが書かれているブログも、ぜひご一読を。
http://www.dyna-search.com/j/book/



昨日のI/O

In:
『帝国以降』エマニュエル・トッド
Out:
セミナー構成案


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・ジョギング