米国から中国へ



その数、実に600人超


小沢幹事長が引き連れていた訪中団ご一行の人数だ。国会議員だけで140人もの方たちが同行したという。物心ついた頃からの話に限るが、そんな大規模な外交団がどこかの国に派遣された記憶はない。もちろん私が知らないだけで、そんなことはしょっちゅあったことなのかもしれないけれど。


ただ過去になら大訪中団は存在した。歴史を振り返ってみれば、今から千年以上前には遣唐使、遣隋使という制度があった。これは当時の状況を踏まえれば、相当な規模だったはずだ。大規模訪中団は日本の歴史上、決して皆無だったわけではない。その意味ではむしろ、今回の訪中団は現代版遣唐使と考えればよいのではないか。


そう考えれば、普天間の問題も納得がいくのかもしれない。日米間の深いところでどんな交渉が行われているのかは知らない。とりあえず表面上、マスコミが強調するのは鳩山首相が迷走しているということばかり。しかし本当に鳩山首相は迷っているのだろうか。あくまでもいくつか可能な解釈の中の一つとして次のような見方はできないだろうか。


すなわち、今後の日本は中国に朝貢するのだと。アメリカとの縁は、どんどん薄くしていくのだと。


だからアメリカとの交渉を、まともに継続しようとしない。あるいは首相自らが大統領に直接「Trust me」と相手の耳元で断言しておきながら、平気でその言葉を裏切る。ごく普通に考えるなら、相手からはけんかを売っていると思われても仕方がない行動ばかりだ。


確かに日米合意は、鳩山民主党政権以前に成立したものである。マニフェストに基地の県外・国外移設を宣言して政権を取った以上、マニフェスト優先、以前の合意は反故にするという考え方には整合性がある。民主党単独の理屈としてならありかもしれない。しかし交渉ごとは常に相手がいる。相手の事情を考慮しない交渉は、そもそも交渉とはいわない。


逆にアメリカがオバマ大統領に代わった時点で「政権が交代したから日米安保はもうやめね」といきなり通告してきていたら、どうなっていたのだろうか。それこそ日本中がひっくり返るほどの大騒ぎになっていたに違いない。国と国の約束は、そうそうは簡単に覆せるものではないはずだ。じゃなかったら外交交渉や条約なんて政権が変わるたびに、一からやり直さなければならない。そんなことは「あり得ない」のだ。


こうしたあまりにも当たり前のことを、鳩山首相はもとより民主党の方々がわかっていないはずがない。ここはあくまで、閣僚の皆さんが揃ってひと芝居打たれている可能性はないのか、という問題提起をしてみたい。


何のためにそんなことをするのか。答えは簡単だ。アメリカの怒りを爆発させず、しかしアメリカの同盟国としてのポジションから日本がフェイドアウトするため、と考えれば話の筋はすんなりと通ってくる(ような気がする)。


もちろんアメリカをいきなり完全に怒らせてしまうのは得策ではない。そこまでのドラスチックな変化が良くないことは当然計算済みである。だから外相は表向き必死で交渉をまとめようとし、防衛省もグアムに飛んで見せたりする。片側では「あえて」社民党が政権離脱なんて脅しをかけて、内政面である意味やむを得ないところがあるのか、とアメリカサイドに思わせたりもする。


しかし事の本質は、アメリカ依存から中国依存へのシフトである(あくまでも可能性レベルの話だけれど)。だからこそ小沢幹事長は大訪中団を率いて中国に出向き、たくさんの代議士を胡錦濤主席に謁見させた。その一人ひとりに胡錦濤主席は握手を返してくれたのだから、中国サイドも破格のサービスぶりである。


もちろん、その見返りはちゃんと用意してあるわけだ。それが習副主席と天皇陛下の面談である。政治利用の問題や、手続きの問題を離れて、もっと引いた視点で日中、日米関係を軸に、この間の動きを第三者的に見てみよう。


アメリカに対しては「Trust me」を破った。12月18日という期限が設定されていたにもかかわらず、それも無視した。一方で中国には多数の議員を引き連れて朝貢し(胡錦濤主席とうれしそうに握手している議員さんたちの表情から思いついたのが、この朝貢という言葉だった)、副主席に対しては極めて異例の厚遇をする。


一連の動きを素直に解釈するなら「これから日本は、アメリカより中国を大切にしますよ」というデモンストレーションではないのだろうか。実際、そういう主旨の談話を民主党の山岡国対委員長自らが、よりによって上海で発言されてもいる。


なぜ、みんな、普通に考えないのだろう。鳩山首相は、あるいは民主党政権は今後、日本は中国に頼って生きていくのだという方向に舵を切った。そのことを一連の動きは示している。個人的にはそうとしか思えない。


はるかに歴史を振り返れば、元々中国は日本が朝貢する相手だったわけで、その意味では民主党の決断は単なる先祖返りにすぎない。いや、GDPで来年には確実に中国が日本を抜くわけだし、若年層の学力レベルでいっても中国には勝てないわけだし……とあまり楽しくない日本の未来像を鑑みるなら、遠いアメリカより近くの中国である。その属国どころか、日本省となってでも現実的な生き残りを図る策はあり、なのかもしれない。


いや、そんなことあり得へんやろ、というコメントがたくさん付くことを心から祈っている。個人的には、アメリカ依存に問題はあると思うけれど、中国依存はもちろんもっと大問題だと思っているので。


あるいはもしかしたら、の可能性の話をするなら、アメリカ側からこの間の日本の動きを読めば、アメリカにとってはすごく嫌なシナリオが浮かぶことも考えられる。米国債を世界でいちばんたくさん持っている国(=中国)と、二番目にたくさん持っている国(=日本)が手を組んだら、どうなるのか。


まあ、どれもこれも下手な考え休むに似たりではあるのだけれど、国際政治の駆け引きを自分なりに考えてみるのは、結構おもしろいことだけは確かだ。



昨日のI/O

In:
上田清司埼玉県知事インタビュー
Out:


昨日の稽古:

・ジョギング、拳立て、腹筋、肩胛骨ほぐし