超一流の思考法


このエントリーは、R+さんから送っていただいた献本(DVD)『BBT on DVD 大前研一LIVE』についてのレビューです。


BBT on DVD 大前研一ライブお試し版 1,050円

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「休みは主に海外で、モーターバイクやスノーモビルを乗り回し、ダイビングに興じたりジェットスキーで風を切ることもある」


一体、どんだけ遊んでんねん、こいつぅ〜! と、やっかむしかないほど、うらやましいばかりの暮らしぶり。とんでもない芸能人系遊び人のことか、はたまた一生働かずに暮らせる大富豪の話か、と思われるかもしれない。が、その正体は、実はまったく違う(もっとも、持っておられるお金の額だけなら、一生遊んで暮らせるぐらいはきっと楽にあるんだろうけれど)。


その人は、経営コンサルタント大前研一氏である。


といえば、謎はさらに深まるかもしれない。大前氏といえば、バリバリのハードワーカーとして知られる。その活躍の場も国内よりは、むしろ海外の方が多いぐらいではないか。もちろん海外に出かけるのは遊びじゃなくて仕事である。


もう10年ぐらい前だろうか、韓国・仁川空港のトランジットで次の便を待っている大前氏をお見かけしたことがある。そのときも少しの時間を惜しむかのように、何かを読んだり書いたりしておられた。かたわらに置かれていたバッグも、決してレジャー用などではなく書類がぎっしり詰まっているようだった。


でも大前氏はきっちり遊んでいる。なぜ、そんなことができるのか。氏曰く「年の初めには、オフの予定から先に入れる」からだと。秘訣はこれである。


大前氏はおそらく、仕事はもちろんプライベートでも、まずゴールを決めるのだと思う。そのゴールも、例えばオフの予定なら「○月○日から○日まで。オーストラリアで○○ホテルに泊まり、ジェットスキーを楽しむ。一日目の晩メシのメニューは○○、二日目は○○、そして三日目は○○。往復のチケットは○○エアーで」といった案配で、極めてきめ細かくきっちりと決め込まれているのではないだろうか。


仕事も然り。ゴールをかちっと数字で表せるようくっきりと定める。それはまるで、雪原の上にぽつんと立てられ、光を浴びてひるがえっているフラッグのような鮮やかさなのだろう。そのゴールに向けての道筋についても、時間経過ごとの到達ポイントまで確かに見えている。他の人にはまだ真っ白な雪野原にしか見えなくても。何しろ氏はパスファインディングの達人である、だから、ぶれない。そして、ずれない。


仕事をそうやって、きちんきちんと時間通りに、自分で決めたパフォーマンスを確実に出してこなす。だから、悠々、遊びにも行ける。


その背景にあるのが、ありふれた言い方かもしれないが『仮説思考』なのだと思う。といって大前氏の仮説は、単純に自分なりの仮説を好き勝手に立てたような粗雑なものではない。大前流の仮説は常に、現在までの時間の流れの中で起こってきたイベントをベースに、現状を把握してトレンドを掴み、その流れに基づいた因果関係の上で将来の仮説(いくつかのオプションを設定して)を立てる『仮説思考』なのだろう。


そのことを、この『BBT on DVD 大前研一LIVE』は教えてくれる。勉強になるのはNews解説だ。


例えば、菅直人氏が財務大臣を兼任することになった。その就任会見で新大臣は、円高の現状に関するコメントを出した。そのコメントの是非は措く。大前氏の解説は、なぜ菅氏がこうしたコメントを出したのかを、菅氏の出自に遡って分析する。


菅氏は東工大出身の理系人間であり、その後は市民運動に転じた。だから経済についてはほぼ音痴といっていい。とはいえ財務大臣となったからには、経済界とうまくやっていかなければならないプレッシャーがかかる。そこで財界受けを狙って、ついつい円高についてネガティブなコメントを口走ってしまう。


DVDの中では触れられていなかったが、菅氏の過去から現在までを大前氏のように理解しておけば、「乗数効果」について問いただされて答えに詰まるような事態もあり得ることと納得できる。このような人物を財務大臣に据える日本政府に対して、海外の投資筋がどう判断するかも先読みできるだろう。一連の動きをトレンドとして掴んでいれば、日本国債格下げの動きも当然のこと、では次はどうなるのかと一歩も二歩も先を考えることができる。


いま起きている出来事は、過去の何かに起因しているわけだ。そして、今起きている出来事は、将来起こる何かの起因となるわけだ。このメカニズムを勉強するための最高の教材に、大前氏のニュース解説はなる。


もう一つ、氏の解説が参考になるのは海外の動きについてだ。残念ながら日本のテレビ、新聞、雑誌を見ている限り、海外の本当の状況はほとんどわからない。筆者は今後のアジアの成長株としてベトナムに注目しているのだけれど、大前氏の見立ては違う。


氏はベトナムに対する海外からの投資が08年度の6兆円(ドルだったかも)から09年度は2兆円に落ちたことを掴んでいる。その理由としてあげられているのは次の三点。政府の意志決定が遅いこと、官僚の腐敗がひどいこと、未だ中国に比べて大幅にインフラ整備が遅れていることだ。いずれも知らなかったことばかりだ。


他にも最近、ロシアやカザフスタンの企業が香港で続々と上場していること、アメリカの金利ゼロ政策の行方が、日本の失われた10年に酷似していること。こちらが見逃しているだけなのかもしれないが、日本のマスコミではほとんど目にしたことのない話ばかりである。


このDVDを、もうすぐ日本でも発売されるiPadで見ることができれば、すきま時間の学習教材としては、これ以上のものはないのではないか。



昨日のI/O

In:
『知の現場』久垣啓一
Out:
梅花女子大学取材メモ

昨日の稽古:

ジョギング6キロ