ポスト・アメリカの世界はどうなるのか?


このエントリーは、R+さんから送っていただいた献本『クーリエ・ジャポン3月号』についてのレビューです。

COURRiER Japon ( クーリエ ジャポン ) 2010年 03月号 [雑誌]

COURRiER Japon ( クーリエ ジャポン ) 2010年 03月号 [雑誌]


失業者数390万人増加=就任当初より34%増
アフガニスタンでの攻撃発生件数150件増=86%増
駐留米軍イラクアフガニスタン)6000人増=就任当初より3%増


オバマ大統領就任時を基準とした現在までの変化である(クーリエ・ジャポン3月号25ページより)。クーリエ・ジャポン今号の特集は「貧困大国(=アメリカ)の真実」。オバマ氏が『Change』しようとしても、どうしようもないアメリカの現実が克明に描き出されている。


だからといってオバマ氏が無能なわけではまったくない。冒頭の数字だけを取り上げてオバマ大統領の『Change』の結果だとか、オバマは失敗したなどとはおそらく誰も思わないだろう。そもそもアフガニスタンに軍隊を派遣したのも、イラクとの戦争も、決断を下したのはブッシュ前大統領だ。


世界的な金融不安の引き金となったリーマン・ショックが起こったのも、ブッシュ政権時代である。その意味で、オバマ大統領には気の毒だが、その大統領就任以前にすでにアメリカは、大きな歴史の流れの中にあったといえるのだろう。その流れとは、エマニュエル・トッドによれば「アメリカ・システムの崩壊」である。


エマニュエル・トッドは『帝国以後(エマニュエル・トッド/石崎晴己訳、2003年、藤原書店)』の中でいち早く、リーマン・ショックの到来を予言している。

アメリカへ投資しているものは)早晩身ぐるみ剥がれることは間違いない。最も考えられるのは、前代未聞の規模の証券パニックに続いてドルの崩壊が起こるという連鎖反応で、その結果はアメリカ合衆国の「帝国」としての経済的地位に終止符を打つことになろう(「帝国以後」143P )


この予言が書かれたのが2002年頃である。トッドによれば、リーマン・ショックはまさに歴史的必然なのだ。アメリカは凋落している。1945年に全世界の国民総生産の半分を占めていたアメリカは、その後坂道を転げ落ちるように弱体化していく。その結果1990年から2000年の間にアメリカの貿易赤字は、1000億ドルから4500億ドルにまで増え続ける。

アメリカ合衆国は自分の生産だけでは生きていけなくなっていたのである。教育的・人口学的・民主主義的安定化の進行によって、世界がアメリカなしで生きられることを発見しつつあるその時に、アメリカは世界なしでは生きられないことに気付きつつある(「帝国以後」36P)


だからアメリカは、あえて世界に敵を作ってきた。世界の敵と闘うアメリカの姿を、世界に見せつけるために。それがドルの信認につながり、アメリカが世界にドルをばらまく代わりに、世界からさまざまなモノを買い入れるシステムを担保するから。


敵はイランであり、北朝鮮であり、アルカイダであり、イラクである。アルカイダによる911アメリカが仕掛けた陰謀だったという説もあるぐらいだ。その真偽はともかく、これもブッシュ大統領にとっては格好のネタになった。


そしてアメリカは泥沼にはまり込む。アメリカが求めているのは、適度に弱い敵である。軍需産業の要請もあり、戦う相手がなくなってしまっては困る。しかし相手が強すぎてもまずい。だから適度に弱い国を相手に争いを挑み続けてきた。ところがアルカイダだけは完全にアメリカの読み違いとなった。


相手は国家ではない。「この世での生は真のムスリムにとっては苦しみなのだ(クーリエ・ジャポン2月号、61P)」と考え、アメリカに対して憎しみの炎を燃やす個人の集まりなのだ。この敵に対する戦いに終わりはない、アルカイダを一人残らず殺してしまわない限り。戦いの無意味さがわかったからだろう、オバマ大統領は、この「間違った相手」との戦いを何とか終わらそうとしている。


これこそがオバマのめざす『Change』ではないのか。さらに深読みすればオバマの『Change』に隠された真の狙いが浮かび上がってくるようにも思える。


日本では知られていないが、今のアメリカがすさまじく弱体化している様子が、クーリエ・ジャポン3月号の特集ではまざまざと描き出されている。実態としての失業率はすでに17%に達し(ほぼ5人に1人が失業者である)、依然として地方銀行の破綻は続いている。さらにフードスタンプ(食料配給券)を受ける人が、1日2万人ペースで増え続けているという。仮にこのペースが1年間続くとすれば年間730万人が、1人あたり1ヶ月130ドルの生活補助を受ける計算になる。


クーリエ・ジャポンの特集ではほかにもアメリカ弱体化を表す記事がいくつかある。詳細はぜひ同誌をお読みいただきたいのだが、アメリカには医療難民があふれ、大学教育も崩壊の危機に瀕しており、営利企業が刑務所ビジネスで儲ける一方で、一度収監された囚人は死ぬまで搾取の対象から抜け出せないという。


古き良き豊かなアメリカはもう、どこにもない。これがアメリカの現状だ。だから世界は、アメリカが世界のトップを下りた後の世界を模索しなければならない。聡明なオバマ氏がそうした惨状を把握しているのだとすれば、彼のいう『Change』の実態とは、アメリカのリセットではないのか。


その引き金となるのは、今アメリカがとんでもない勢いで(もしかすれば意図的に)ばらまいている米国債の暴落だろう。そのときアメリカは、これまで演じ続けてきた世界一の大国の座を下りることになる。


その後のアメリカがどうなるのか。選択肢の一つとしてありうるのが、新・モンロー主義だと思う。南米も含むアメリカ大陸に閉じこもり、ヨーロッパとは相互不干渉に徹する。中国からの輸入抜きでアメリカの生活が成り立つかどうかは不明だが、やってやれないことはないのかもしれない。あるいは中国産品の国産化で国内景気の回復を図ることも選択肢としてはあるだろう。


という『Change』が、もし本当にアメリカのオプションの一つだとすれば(現状を基準に考えるならあり得ないとは思うけれど)、アメリカがその選択肢を選んだときのことを考えておく必要がある。世界はどうなるのか。日本は、どうやって生き残るのか。そんなポスト・アメリカの世界を考えるキッカケを、クーリエ・ジャポンの特集は与えてくれた。



昨日のI/O

In:
『神々の流ざん』梅原猛
Out:
O社株主通信原稿

昨日の稽古:

ジョギング6キロ/50分