考え方の枠を広げる
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このエントリーは、R+さんから送っていただいた献本『フォーリン・アフェアーズ リポート』についてのレビューです。
自ら望んで「井の中の蛙」になりたいと考える人は、おそらく一人もいないでしょう。
であるなら、例えば『フォーリン・アフェアーズ リポート』のようなクォリティペーパーを読むことを奨めます。その理由は大きく三つあります。
一つは、この月刊誌を読めば、アメリカのオピニオンリーダーたちが、世界中で起こっているさまざまな問題について、どのように考えているかがわかるからです。
二つ目には、同じテーマについて、アメリカ国内でも、異なる見方、考え方の併存していることがわかります。しかも、それぞれの主張にきちんとした根拠があり、ロジックの組み立て方に説得力がある。だから、なぜ意見が違うのかがよくわかるわけです。
第三に、このリポートは日本人が読むことを前提として書かれていません。だから日本人にとっては、とんでもないようなことが平然と書かれていたりします。これは結構重要なポイントで、例えば日本のメディアにアメリカの有識者が寄稿する場合と比べると、その差が際立つでしょう。
つまりアメリカ人が、アメリカ人に読まれることを前提にして書いた文章と、アメリカ人が、日本人に読まれることを前提として書いた文章には、大きな違いがあるはずです。このリポートを読めば、アメリカの外交問題で意志決定に関わる人たちの、本音に近い意見を知ることができるのです。
今号(2010 NO.2)の巻頭リポートは、題して『台湾がアメリカを離れて中国の軌道に入るべきこれだけの理由』。台湾はフィンランド化すべきだというのが、その論旨です。フィンランド化とは
かつてフィンランドがソビエトの懐に入り、西側と東側の和解の橋渡しをしたように、台湾がフィンランド化して中国の軌道に入れば、その存在が、中国における前向きの変化をこれまで以上に刺激し、中国が平和的に台頭する可能性を高めることができる(『フォーリン・アフェアーズ リポート 2010, NO.2』 5ページ)
ブッシュ大統領時代には、おそらくあり得なかった考え方ではないでしょうか。が、この主張には深い読みがあります。中国の動きに関する洞察が背景にあります。たとえば
北京が台湾のWHO参加を容認したのは、台湾により大きな国際的発言力を与えれば、アメリカからの自立が促され、中国の国益につながる(前掲誌、12ページ)
と読むわけです。このような読み方は、北京の内在的論理をきちんと掴んでいないと出てこないでしょう。
内在的論理、すなわち現象の背景にある考え方を抑えておかないと、敵対するはずの台湾が、より大きな国際的発言力を持つことは、中国の国益に反するではないかと単純に考え、思考停止に陥ってしまうリスクがあります。そうした単純思考では、複雑な国際政治でリーダーシップを取ることは極めて難しい。
さらには時間の推移による変化を計算に入れることも忘れてはならない。これは先日のエントリー「鳩山首相とオペレーションズ・リサーチ(→ http://d.hatena.ne.jp/atutake/20100217/1266412213)」の繰り返しになりますが、中台関係も時間の流れの中で、特に若い世代の意識は確実に変化しているようです。
そして中国サイドで起こっている変化から
すでに中国の多くの人々が、台湾のポップカルチャーとビジネス規範を受け入れており、今後の中国の民主化は「台湾を見習え」という世論の圧力、そして透明性と説明責任を求める台湾の有権者の期待に見合った関係構築の必要性によって促されていくだろう(前掲誌、13ページ)
と読む。
こうした一連の変化が現実のものとなったとき、どのような影響を日本に及ぼすでしょうか。これまで台湾を挟んでいた日中関係が変化することは確実でしょう。それは、例えば領土問題や東シナ海でのガス田開発に影響するはずです。
このリポートの筆者はブルース・ジリー氏で、この人がオバマ政権に対してどんな影響力を持つ人なのかはわかりません。とはいえ『フォーリン・アフェアーズ リポート』の発行母体が外交問題評議会(Council on Foreign Relations)、すなわちアメリカ合衆国のシンクタンクを含む超党派組織であることを考えれば、それなりに影響力があることは間違いないでしょう。
仮に今後、オバマ政権がこうした考え方をベースに意志決定するとすれば、その変化は間違いなく日本にも大きな影響を与えます。とはいえオバマ政権の意志決定の根幹にある考え方がわかったとして、それが一体なんの役に立つのだ? と問われるかもしれません。
この問いに対しては、少なくとも筆者に実利はない、と答えるしかありません。ただ、世界の動きを知ることは単純におもしろい。そして、日本のメディアに接しているだけでは知るよしもなかった考え方に触れることは、自分の思考の枠を確実に広げてくれます。それだけでも個人的には十分に価値があります。
昨日のI/O
In:
『決算書の読み方』岩谷誠治
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