日米間の秘密




このエントリーは、フォーリン・アフェアーズ・ジャパンさんから送っていただいた献本『フォーリン・アフェアーズ リポート』についてのレビューです。


国内2800カ所に米軍が26万人


終戦直後、旧安保条約で日本がアメリカから突きつけられた条件です。今でこそアメリカは日本の最大の友好国であり、アメリカにとっても日本がもっとも重要な同盟国である。などと、何となく考えている人が多いのではないでしょうか。


本当にそうなのでしょうか?


たとえば、普天間基地の問題は、なぜこんなにもややこしくなっているのか。この問題についてはあまりにも情報が錯綜しているので、実際問題として何がどうなっているのかが、とてもわかりにくい。ただしテレビ報道には十分に気をつける必要があると思います。


もう10年以上も前に普天間の近くに長期滞在していたある方と、知り合いになりました。その方から伺った話では、基地に離発着する飛行機の数は、少なくともテレビで報道されているほどには多くないとのこと。実際に飛び交っている飛行機の数については、正確なデータはありません。だからこの方の話だけを一面的に信じるのは危険でしょう。


しかし、テレビがどんなシーンを撮影して放送しているのか、については、少し考えてみた方がいい。つまり飛行機が飛び立たず、着陸もしていない普天間飛行場の様子をテレビは絶対に放映しないはず。従ってテレビに映し出される普天間だけをみていると、いつも飛行機が轟音を立てて離発着している印象を受けるでしょう。そうしたシーンだけをインプットし続けていると、当然ですが物事の見方にバイアスがかかってしまいます。


また、件の方がおっしゃっていた話で印象に残っているのは、普天間から基地がなくなってしまったら、町の経済は壊滅的なダメージを受けるということ。米軍なくして町は成り立たない。そのことを町の人たちは自覚しているだけに、彼らの感情は屈折したモノとならざるを得ない。そんな話もありました。


日米間には深い絆がある。だからアメリカが、日本に不利なことを押しつけるはずがない。こうした考え方が完全な幻想に過ぎないことを教えてくれるのが、同誌所収の記事『日米安全保障条約50周年の足跡と展望』です。


そもそも太平洋戦争当時、日本はアメリカにとって憎むべき敵でした。だから原爆を二発も使い、完膚無きまでに叩きのめしたのです。そして戦後、日本はアメリカにとって対共産戦略上の利用価値があった。朝鮮戦争の時にもベトナム戦争の時にも、日本は後方支援拠点として重要な位置を占めていました。


だからこそ、それなりの経済繁栄には目をつぶった。しかし日本の繁栄ぶりが目に余るようになってくると、当然叩く。記事には驚くべき事実が書かれています。

1971年には、日本の輸出攻勢がアメリカで政治問題化した。当時の佐藤栄作首相は、沖縄返還の見返りに、日本の繊維製品の対米輸出を控えることをアメリ側に約束したが、輸出攻勢が止まらないことを裏切りとみなしたリチャード・ニクソン大統領は、日本に対して三つの報復策をとった(『フォーリン・アフェアーズ・レポート』3月号16ページ)


三つの報復策とは、日本に事前通告せずキッシンジャーを中国に派遣して米中和解路線を模索したこと、日本になんの相談もせず金本位制から離脱したこと、さらに日本製品に10%の輸入課徴金を課したこと。これは「ニクソン・ショック」と呼ばれたそうです。


アメリカが時として日本に対して理不尽な仕打ちをすることは、別に珍しくも何ともない。たとえば医療器具の問題があります。日本の医療現場で使われる医療機器の多くはアメリカからの輸入に頼っていますが、この医療機器には高額のマージンが課せられているのです。


カテーテルなどがその代表で、日本ではアメリカの4倍ぐらいの価格になっている。しかもカテーテルそのものは、日本のメーカーが日本で作っているのにも関わらず、です。


一体どういうカラクリになっているのか。日本メーカーがアメリカ商社に輸出し、そこから再び日本に再輸入されているわけです。なぜ、このようないびつな取引がまかり通っているかといえば、ことの起こりはやはり日米貿易摩擦に行き着く。


当時、日本製品、特に自動車の対米輸出がふくらませた貿易赤字に業を煮やしたアメリカ政府は、強硬にその見返りを求めました。その結果、医療機器はアメリカから輸入するという流れが作り出されたのです。クルマの輸入は認めてやるから、医療器具はすべてアメリカから買え。そんな取引があったのです。


もちろん、だからといって単純にアメリカが敵だ、と反発して済む話ではありません。日本の安全保障を考える上では、今のところ日本はアメリカに頼らざるを得ない。だから米国債にリスクがあることを知りながらも、買い支えざるを得ない。アメリカにとって日本のオプションとなる国はあるのかもしれないけれど、今の日本にとってアメリカの替わりとなってくれる国はどこにもないのだから。


要は国際政治の現実は、そうした厳しい利害関係が絡み合って動いているということを頭の隅に置いていくことが必要なのです。ただし、残念ながら日本のマスコミを見ているだけでは、そのような状況に気づくことは難しい。そこで役に立つのが『フォーリン・アフェアーズ・レポート』のようなクォリティペーパーというわけです。


ちなみに3月号・巻頭にはジョセフ・スティグリッツ氏のレポートが掲載されています。タイトルは「金融危機と規制、経済の不均衡、中国、ドルの将来」となっており、その最後がとても印象的な一文で締めくくられています。

世界が米ドルを借りるということは、実質的にはアメリカは商品ではなくドルを輸出していることを意味する。そして、資本流入の副作用として、アメリカは貿易赤字に陥る。米国債を輸出しても雇用を生み出すことはできない。そして貿易赤字が経済を弱体化させ、雇用問題を悪化させていく(前掲誌、13P)


エマニュエル・トッドが指摘するアメリカの弱体化は、構造的なものなのかもしれません。




昨日のI/O

In:
『世界像革命』エマニュエル・トッド
Out:
武雄市取材テープメモ

昨日の稽古:

LSD走1時間