牛のよだれ走り


16キロを2時間

かけて走った。時速8キロ、早歩きとほとんど同じぐらいの早さである。やらなければならないと思っていた予定が、ちょっと伸びた。時間が空いた。しかも天気はといえば、見事なまでの五月晴れである。眠りが足りているので、体調も良い。よし、走ろうと思ったのだ。


バスで遠くまで出かけ、走って帰って来ようと考えた。大原ぐらいまで行けば、ええ感じで走ってこれるのではと思い立ち、バス停まで歩く。ジャージに長袖のTシャツ一枚、ポケットに家のカギと500円玉を二個入れた。Tシャツ1枚では寒いかと悩んだが、かといってもう一枚重ねて着ると暑かったときにもてあます。


エストポーチでもまいて走ればよいのだろうが、手頃なのがない。思いきって長袖Tシャツ一丁で出かけたのはよいが、相当くたびれたシャツ故にバスに乗り込むのは、ちょっと気後れしていたのだ。待つことしばし、やってきたバスを見てびっくりである。さすが連休初日(中日という人もいるのかもしれないが)だけあって、京都駅発の大原行きバスは満員である。


満員バスに、それも観光客ばかりの車内に、変な格好したおっさんが乗り込むと、京都の評判を落としてしまうのではないか。せっかく京都観光に来られた方の気分を害しちゃあ、いかんのではないか。自制心が働いた結果、バスは諦めて最初から走ることにした。


もとより京都市内で走るコースに困ることはない。ただ、気分的に、どこかまで駆けていって、また戻ってくるのが嫌いなだけなのだ。行きと帰りで違うコースにしようと、まずは鴨川をめざす。


鴨川は、走るのに最高のコースの一つである。なにより空気がよい。ここは京都市内の風の通り道なのだろう。いつも、良い風が吹き抜けている。川沿いにクルマが走ってはいるが、道から一段下りたところ、川のすぐ横に広がっている空間では排気ガスのにおいは感じない。


しかも二条より上ぐらいまで来ると、道が土になる。これが足に優しいことはいうまでもない。遊歩道の脇にも空きスペースがあり、草が生えている。ほんの短い草でもコンクリートアスファルトの上を走るのとは大違いだ。潤いに欠けてきている膝には、草クッションはありがたいことこの上ない。


ここまでずっと「走る」と書いてはいるものの、実際の動きを「走る」などと表現するのは、大間違いである。なにしろ長時間走ることが目的なのだ。いかに疲れないように走るかが勝負になる。


足の上下動をできるだけ抑えた。腕も可能な限り振らない。腰も揺すらないというか、回さない。一昔前に流行ったナンバ歩きを、そのまま少し早くした、ぐらいの感じか。


足の裏も力強く地面を蹴ったりは決してしない。むしろ力弱く、靴底を擦らないよう気をつけながら、必要最小限浮かす。実にへなちょこ走りである。当然、後ろから来たランナー何人かにすいすい抜かれていく。それでよいのだ。


今日の目標は2時間走り続けること、これだけなのだから。


鴨川沿いを快調に北へ向かう。暑い。出町柳で道は、高野川と賀茂川に分かれる。高野川を選ぶ。少し前を、おそらくは老人ランナーが二人、LSD(ロング・スロー・ディスタンスのことですね)スタイルで仲良く走っている。こりゃいいわ、ペースメーカーになってもらおうと10メートルほど後ろに付いた。


しかしである、高野川右岸は、東からの直射日光にさらされている。逆に左岸を見ると、堤防に植えられた木々が、涼しそうな木陰を作っている。せっかくのペースメーカーを失うのは残念だが、こっちは帽子も被っていないので、左岸に移る。


おじいさんランナーお二人のペースが速すぎて、付いていけなかったわけでは断じてない。という、自分も50歳ランナーだから、10代の若者から見れば「あんたも、十分、じいさんや」となるのだろうが。


さて、どれぐらい走ったのだろうか。北大路を超えて、さらに進む。腕時計をしていないので、時間がまったくわからない。そろそろ結構な時間を走ったはずだと思い、堤防に上がってみた。昔暮らしていたことのある、一乗寺の街中を抜ける。1時間ちょっと経っている。


1時間かけてここまで来たきたということは、ここから引き返せば、もう1時間走ることになる。といって同じ道を走るのでは芸がないから、今度は白川通りを南下する。歩道を歩いている人とすれ違うとき、ときどき、いや結構頻繁に、妙な顔をされる。


たぶん、Tシャツの首回りがあまりにもダルダルになっていて、いささか浮浪者っぽい身なりをしており、しかも無精ひげを生やした50がらみのおっさんが、汗だらだらで、走っているつもりのようだけれど、とても走っている早さに達していないことが、何らかの違和感を生んでいるのかもしれない。


自転車に乗っていた小学生などは、すれ違いざまに「こわぁ〜」などと抜かしおった。失礼なガキだ。ベビーカーを押してこちらに向かっていたお母さんは、なぜか必要以上に私を避けた(ように見えた、気のせいだと思うけど)。


やがて白川通りを東天王町まで下り、平安神宮の前を抜けて、二条通から下がって御池を渡り、碁盤の目をL字状に駆けて戻ってきた。家にたどり着いて時計を見たら、バス停で見た時間からちょうど2時間10分である。


なんか、走っている間に、頭の中から、いろんなものが、どこかへ飛んでいったみたいだ。とってもすっきりである。足が痛くならなければ、連休中にもう一回ぐらい、走ってやろうかしらんなどと思っている。


昨日のI/O

In:
『わかりやすく<伝える>技術』池上彰
倉田・箕面市長さまインタビュー
桑原梨紗・easy京都観光プロジェクトリーダーさまインタビュー
Out:

昨日の稽古: