日本とアメリカの外交の違い
フォーリン・アフェアーズ アンソロジーvol.30 学問とビジネスの出逢い ――シンクタンクはいかに社会と政策に貢献できるか
- 作者: ピーター・グローズ,フォーリン・アフェアーズ・ジャパン,Foreign Affairs Japan
- 出版社/メーカー: フォーリン・アフェアーズ・ジャパン
- 発売日: 2010/05/28
- メディア: 雑誌
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このエントリーは、R+さんから送っていただいた献本『フォーリン・アフェアーズ 学問とビジネスの出逢い』についてのレビューです。
世界のすべての人々がすすんで模倣したいと望む生活の模範を示すために、われわらは可能な限りの努力をしなければならない(『フォーリン・アフェアーズ 学問とビジネスの出逢い』p27)
第二次世界大戦直後、フォーリン・アフェアーズの発行元・(米国)外交問題評議会の研究グループが書いた草稿の一文です。おそらくは、これが戦後のアメリカ外交における内在的論理となったのでしょう。そう考えるとアメリカの対外活動を理解しやすくなる。
もちろんベトナムからイラクにいたる戦争の背景には、軍事産業の意向や原油確保といった変数も絡んでいるはずです。しかし対外的な姿勢のバックボーンの一つには、この文章に見事なまでに集約された考え方があるに違いない。それを傲慢ととるのか、なんと脳天気な単一的世界観と理解するのかは、ここでは問わないことにします。
ここは一つの思考実験に取り組んで欲しい。
仮に、アメリカ政府の外国での行動の背景に、こうした考え方が有ったとする。この考え方にもとづいて行動してきたアメリカは、世界の現状をどう捉えているだろうか。考えてみたいのは、この点です。
アメリカは当初、西側諸国の守護神として君臨した。ソ連崩壊後は、単に西側にとどまることなく、全世界のリーダーであろうとした。経済でも同様でしょう。ドルは世界の基軸通貨であり、世界経済はウォールストリートを中心に回った。幸いにしてアメリカ発のIT産業が、次世代産業の中核ともなった。
ところが、エマニュエル・トッドが『帝国以後』で指摘したように、その後アメリカはあらゆる面で急速に弱体化した。象徴的な出来事がアル・カイーダとの戦いではないでしょうか。
ビン・ラディン率いるグループとの戦いは、アメリカが得意とする従来の戦争パラダイムでは捉えきれない局面に移行している。国家対アメーバのような組織の戦いに、従来のアメリカの軍事的パラダイムが通用しないことは、誰が見ても明らかです。
ドルが基軸通貨であることも、幻想となりつつある。ドルを刷り続けるだけで、いつまでも消費を謳歌できる環境ではないことを、アメリカ自身が認識するようになった。
そして、もはや「世界のすべての人々がすすんで模倣したいと望む生活スタイルの模範」がアメリカにあるなどとは、アメリカ以外の世界の人々は考えていない。もしかしたら、当のアメリカ人でさえ、そんなことは思っていないのかもしれない。
そのアメリカが、今の世界の状況に対して、何を思っているのか。危険なマグマが溜まっている恐れはないか。あるいは、超・内向きに転換するリスクは考えられないか。溜まったマグマが暴発する危険性はないのか。などなどさまざまなイシューが出てきます。
フォーリン・アフェアーズのアンソロジーの一つ『学問とビジネスの出逢い』にある一文だけを捉えて、ここまで勝手な思考実験をすることに意味があるのかどうかはわかりません。しかし、このアンソロジーを読んだ刺激が、ここまで書いてきたような内容につながりました。
アメリカの外交における内在的論理の一端も理解できたように思います。翻って日本を見たときに、その極めて屈折した外交姿勢の背景を少しわかったような気もする。
日本には、アメリカの外交問題評議会に相当するシンクタンクはないようです(もしかしたらあるのかもしれませんが、少なくともフォーリン・アフェアーズ・レポートのような公開誌を発行していて、政府の外交政策に影響を及ぼす機関はないでしょう)。だから、海外の情勢分析に厚みがない。首相や外相に適切なレクチャーをできない。
世界の中での自国を、自国なりの視点で相対化して理解できていない状態では、世界の中での自国の確固とした視点に基づいて理論武装している国と議論しても、その議論はかみ合わないのではないでしょうか。
外交問題評議会のような機関を、日本にも作る必要がある。そのためには、人材がいる。そのためには、教育がカギになる。そのためには……、と考えるキッカケにもなりました。
最後になりましたが、この『フォーリン・アフェアーズ』は、今回のアンソロジーだけでなく、通常の月刊レポートも翻訳のレベルが極めて高く、文章がこなれているので、とても読みやすいことを付け加えておきます。
昨日のI/O
In:
『てっぺん!の朝礼』大嶋啓介
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