チーム・パスカル


「よく眠っていましたね」


高一の時に、地学を教えてくれていた校長先生からいわれたひと言だ。あまりに意味不明というか、これ一体何語なんでしょう状態の講義ゆえ、耳をふさぎ、ついでに目もふさいでしまった授業後のこと。ふと顔を上げると、横に校長先生が立っておられた。


あるいは、答案用紙に大きな○を付けて、返してもらったこともある。忘れもしない、数3の試験である。早々と文系志望を固めていたので、数3なんかできなくて当たり前と考えていた。でも、そういう文系進学者のためにも、サービスで20点(=赤点ですね)はクリアできるだけの計算問題を付けておいてくれるのが、数学の先生の優しさだと思っていたら、あにはからんや


高二の時の数学教師は、ちょっと変わった先生だった。サービス問題はまったくなし。ごりごりの難問が4つだったか、5つだったか。理系の奴でも、そうは簡単に解けないぞ、という問題が並んでいた。それは、文系の自分にとっては、まったくの謎の呪文としか思えなかった。その代わり、多数の零点取得者には一律20点のげたを履かせてもくれたのだが。


やがて進んだ大学は文学部、以降、書くこと、聴くことを主な生業としてやってきた自分が、こともあろうに『理系ライターズ』を名乗ることになるとは。


キッカケは、私の本の編集や私が関わった本の編集をしてくれた敏腕編集者・大越さんが京都に来たことにある。その後、しばらくして『遊牧夫婦』を書いた近藤雄生さんを大越さんから紹介してもらい、やがて京都ブレックファーストクラブで理系女子&出版甲子園優勝者の平松紘実さんと知り合う。


近藤さんは東大工学部で航空宇宙工学を学び、大学院では環境海洋工学を専攻したバリバリの理系だ。平松さんも、京大農学部の現役院生でタンパク質の研究をしている、これまた正真正銘の理系女子である。そこに、なぜ文系一筋だった自分が加わるのか。そもそもそんな人たちのグループに参加して『理系』などと名乗る資格があるのか。


もしかしたら、あるかもしれない、と思った。


長年、取材仕事をやってきていると、取材相手が理系というケースがある。単にあるというよりも、ここ数年は多々ある、と言った方があたっているかもしれない。今年に入っての取材相手に限ってみても、大学教授を中心に30人ほどの理系の方から話を伺っている。


その内容は、脳にやさしい次世代3D装置、カビを活用したスーパーバイオマシン、トンボの羽根と飛行機の翼とレイノルズ係数、細胞からクローンマンモスをよみがえらせる技術、都市景観を考える上での俯瞰景と仰観景、超伝導リニアモーターカー、自律制御する群ロボット、肝臓がんの進行を抑えるDNAのメチル化、テラヘルツケミカル顕微鏡、超塑性セラミックス、脊柱管狭窄症に医療クラウドからIPv6問題と、実にバラエティ豊かというか、支離滅裂というか。


もちろん、それぞれの相手のご研究の深いところを理解しているわけではない。そんなこと、簡単にできるわけがない。でも、これだけいろんな理系人の話を聴いていると、何となく理系地図が頭の中にできてくる。超伝導と聞けば、何となく「あぁ、あのへんのことね」とか流体力学とは「そうそう、そういえば」とか。


あるいは、あの奇跡の帰還を遂げた宇宙衛星『はやぶさ』のエンジンと、最新のプラズマディスプレイには関わりがあるんだぞ、といったことがおぼろげではあるのだけれど、わかっている。この理系分布図のようなものが意外に役に立つんじゃないだろうか。


理系の技術を、理系の言葉で語ったのでは、理系の人にしかわからない。けれども、理系の技術を、文系の言葉で翻訳すれば、より多くの人にわかってもらえるかもしれない。科学的な精密さ、厳密さが、いささか漏れ落ちるリスクがあることは承知の上で。


そのリスクも、バリバリ理系のメンバーがサポートしてくれれば、ある程度カバーできる可能性がある。逆に理系メンバーの文章を、文系視点で見れば、よりわかりやすく表現することも可能だろう。


といった思いを込めて、立ち上げた理系ライターズ『チーム・パスカル』。ぜひ、一人でも多くの方に知っていただき、ご活用いただければと思います。たまたま、2011年8月、理系、文系の書くことが好きで、書くことを生業としている人間が4人、京都で縁あって知り合って、集まってできた。


このことに、何かを、ちょっと大げさに言えば運命的な出会いを、感じていたりもします。


どうぞ、よろしく。


昨日のI/O

In:
京都大学工学部・斧教授取材メモ
Out:


昨日の稽古:

ジョギング