浅田次郎的クッションへこみ



部屋のまわりをお尻の型が一周


浅田次郎先生のエッセイにあった一節だ。先生は畳の上にあぐらをかき、ちゃぶ台で原稿を書かれていた。すると何が起こるか。ずっと同じところに座っていると、畳が自分のお尻の形にへこむそうだ。


へこんでしまうと座り心地が悪くなる。ゆえに少し場所を横にずらして座る。しばらくすると、そこがまた同じようにへこむ。何しろ一日、何時間も原稿書きに努められるのだ。畳もどんどんへこむというもの。


そしてある時、部屋に入った先生は気づかれた。何とお尻の形が部屋を一周していることを。つまり、そうやって座り続けて、原稿を書き続けることで先生は、素晴らしい(などと私がいうのは誠にもっておこがましいが)作家となられた。


で、昨日、ふと自分が家の仕事スペースで使っているイスを見ると、なんと自分のお尻の形にくぼんでいるではないか。思えば、ここで、たくさんたくさんキーボードを叩いてきた。今年は原稿用紙にしてざっと6900枚分ほどキーを叩いている。


もっとも、その半数以上はテープ起こしであり、自分が書いた原稿とはいえないものだ。けれども私の仕事にとっては、テープ起こしは必要な作業である。世の中にはテープ起こし派、テープ聴くけどメモしか取らない派、そもそもテープなんか聴かない派、最初っから人の話を聴いていない派(さすがに、これはないと思うけれど)がいる。


以前はメモ派だったが、それでは書いた原稿の深みが今ひとつ欠けることに気づいた。それ以来、とりあえずテープは必ず聴く。そして、できる限り自分用のメモを起こすことにしている。そんなこんなで、今年もたくさんキーボードを叩いてきたわけだ。


文字数にすると276万字ぐらいになる。バリバリのプログラマーと比べたら、どちらが多いのだろうか。というか、そもそもプログラマーは文字を打っている感覚がないだろうし、自分がうった文字数を記録しておくなんて人もいないだろう。


私の場合は、原稿は文字数制限がある場合が多く、エディターでいつも文字数を表示させているために、何となく記録しているのだけれど。去年は320万字だった。比べると今年は15%ぐらい減っている。地震の影響もあって、いくつかの仕事がなくなった。とはいえ、新しい仕事、一生涯かけて追ってみたいテーマと出会うことができた。


来年も、このお尻の型にすっぽりとはまって、ぽちぽちと良い原稿を紡ぎ出していきたい。どうぞ、よろしくお願いします。



昨日のI/O

In:
『うつとよりそう仕事術』酒井一太
Out:
マーケティング本原稿

昨日の稽古: