一人用、だけど大人用


4863万世帯


2010年の日本には、これだけの世帯数がある(日経産業新聞2012年3月29日付8面)。世帯数は、30年前と比べて38%増えた。一方で平均世帯人数は3.28人から2.59人まで減っている。今や夫婦ふたりに子ども一人以下が、日本の平均的な家庭像なのだ。


なぜ、こんなことになったのかといえば、少子高齢化核家族化が進んだためだ。日本の出生率は2010年時点で1.39しかない。ざっくりいえば、夫婦二人から子どもが一人しか生まれてこないために、人口はどんどん減っていく。仮に奇跡的にこの先5年ぐらいの間で出生率が5ぐらいまで増えたとしても、当分の間、日本の人口はひたすら減り続ける。母体の数がどんどん減っていくため出生率が増えても、総人口は増えないのだ。


それはさておき、将来の年齢別人口は確定した未来である。日本では少子高齢化と同時に、核家族化も加速してきた。その結果、都市部で高齢者だけの世帯や高齢者の一人暮らし世帯が『増えている』。『増えている』ということは、以前と比べて変化が起こっているわけだ。変化のあるところ、必ずビジネスチャンスがある。



そこで高齢者の一人暮らしを狙って開発された製品がいくつも出てきている。例えば食洗機であり、洗濯乾燥機であり、炊飯器だ。といえば、いずれもいわゆる「白物家電」である。市場ライフサイクル的には完全に成熟期、つまり「終わった」マーケットのはずだったのだが、年齢別人口構造の変化によって息を吹き返した。



とはいえ一人暮らし用の白物家電市場は、実はこれまでも確実に存在していた。それは一つには大学入学を機に一人暮らしを始める学生向けであり、さらには就職を機に親元を離れる新社会人用である。ただし、いずれのターゲットも経済的にそれほどのゆとりはない。そのためにシンプル&エコノミーが商品コンセプトとなっていた。


ところが高齢者の一人/二人暮らし世帯が増えてきたことによって、完全成熟市場のはずだった白物家電に新たなマーケットが生まれた。それが『一人用、だけど大人用』である。シンプル&エコノミーではなく、オーセンティック&スタイリッシュとでもいうべきか。そのポジショニングを示すと下記のようになるだろう。



三菱電機のIH炊飯器「本炭釜」などは「かまどで炊いたご飯のおいしさを知っている人にぜひ味わってほしい(前掲紙)」そうだ。筆者はいま52歳だが、かまどで炊いたご飯などを日常的に食べていた記憶はないから、この商品はかなり上の年代層を狙っているのかもしれない。


それはともかく、年齢別人口の変化が新たなマーケットを創りだしたことは事実だ。この『一人用、だけど大人用』マーケットには、他にもいくつかのProductが考えられるのではないだろうか。商品開発を考える上で起点となるのは、一人暮らし高齢者のニーズだろう。


併せて高齢者の生活動線を踏まえた上でマーケティング展開を考えるなら、カギとなるのはPlace、すなわち顧客との接点にあると思う。




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『走ることについて語るときに僕の語ること』村上春樹
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