原価率100%で儲ける秘密


天然生マグロ中とろ700円


JR海浜幕張駅すぐそばの「忠助海浜幕張店」の目玉メニューは、原価率100%だという(日経MJ新聞2012年4月13日付15面)。通常、飲食店の原価率はざっと2割から高くとも4割ぐらいのはずだ。だから、この天然生マグロ中とろの刺身は、普通の店なら1800円はするはず。それを700円で食べられるとあれば、客の「得した」感は大きいに違いない。


もちろん、この店がすべてのメニューを原価率100%で出しているわけではない。当たり前だが、そんなことでは経営が成り立つはずもない。飲食店のコストは、だいたい次のような構造になる。



F/L費とはFood & Laborの略で、原材料費と人件費(パート・アルバイトなど)のこと。売上高の55%ぐらいに抑えるのが理想だが、一般的には60%前後になる。「忠助」さんでは、他の目玉料理「関サバ刺し」が800円で原価率75%、料理の平均原価率は45%だという。


原価率が高いということは、すなわち利益率が低いということ。客からすれば良いものを安く手に入れることができるので、「値打ち感」が高くなる。その結果、同店は165平方メートルで月商1200万円、坪単価に直せば24万円/坪になる。102席に対して一日150人程度が来店するというから、回転率は1.5になる(前掲紙)。かなりな繁盛店だ。


年中無休らしいので客単価はざっと2700円(=1200÷30÷150)。最近の居酒屋は2000円強ぐらいの単価設定になっているから、なかなか好成績といっていい。料理の平均原価率が45%とあれば、パートやアルバイトの数を絞り込んでいるのかもしれない(これは行ってみないとわからない)。


果たして、このコスト構造でも儲かるのか。


おそらくきっちりと利益は出しているはずだ。その秘密は、二つある。一つは同店がビルの4階にあること。これで家賃を低く抑えていると推定できる。言うまでもなく立地が同じなら、1階の家賃が一番高くなる。次がその他経費である。記事によれば「忠助は開店からこれまで、宣伝らしいことをほとんどしたこなかった(前掲紙)」という。


つまりチラシを打ったり、ポケットティッシュを配るなどの広告宣伝費、販促費はゼロなのだ。ここで経費を抑えている。販促経費は売上の3%から5%ぐらいだから、これを抑えればそれだけ利益が増える理屈だ。と、ここまで説明すれば、勘の良い方は「忠助」さんの儲けのからくりがおわかりになったかもしれない。


「忠助」さんの原価100%マグロは、同店にとっての集客策なのだ。これを食べた人が「あそこのマグロ、値段の割にめっちゃうまいで」と口コミしてくれる。これが何よりの広告になる。しかも、その「めっちゃうまい」マグロを食べた人は、また「忠助」さんに足を運ぶことになる。すなわち、この原価100%マグロはリピーターを囲い込むための会員カードの機能も果たす。


だからといって「忠助」さんは、このマグロを赤字を出してまで売っているわけではない。原価率100%ということは、少なくとも仕入れ値の分は確保しているのだ。その結果、口コミが広がり、日経MJ新聞に取り上げられ、こうした弱小ブログでも記事が書かれたりする。その広告効果がいかに大きいことか。


『飲食店の販促は、売り物を使え!』。損して得取れというのは、この鉄則を意味しているのだ。



昨日のI/O

In:
『一瞬で大切な事を伝える技術』三谷宏治
Out:
某取材原稿テープ起こし
近畿大学水産研究所ラフ原稿

昨日の稽古: