超高齢社会・日本で勝負するネスレの戦略


1913年日本進出


来春、日本進出百周年を迎える外資企業がある。スイスに本拠を置く世界最大の総合食品会社、ネスレだ(日経産業新聞2012年3月28日・30日付)。「ダバダァ〜……」といえば『ネスカフェ』のネスレである(今じゃもう通じないかも)。


それはともかく。日本は少子高齢化で世界最先端を突っ走っている。少子とは、すなわち人口が減ること。人口、すなわち人の口である。人口が減ることは、食品販売量が減ることを意味する。食品市場が縮むのは、食品メーカーにとって、ボディブローのようにじわじわとではあるけれども確実に効くダメージで、やがてはダウンにつながりかねない。


そこで日本企業なら、新たな市場を求めて新興国に進出することを考える。実際に多くの優良企業が海外に新天地を求めている。ところが、ネスレ日本の場合はそうはいかない。スイス本社が既に世界中に現地法人を作っているのだ。進出先のないネスレ日本は、市場が縮小し続ける日本で勝負するしかない。


では、同社は厳しい環境の中に、どのような商機を見いだしているのだろうか。ここで、ごく簡単なSWOT分析をしてみたい。一つ注意したいのが、SWOT分析の使い方だ。SWOTというと「ああ、自社の強み弱みと、自社を取り巻く環境のプラス要因・マイナス要因を考えれば良いのでしょう」と考えられがち。だが、実はそれだけでは何の役にも立たない。大切なのは『クロスSWOT』を埋めることだ。



追い風要因をしっかり掴まえて、自社の強みを伸ばすためには、どうすればよいか。もっとも重要なのは、このマス(=積極攻勢戦略)をまずきちんと埋めること。これで脅威、弱みをカバーできるのであれば、ほかの戦略はオプションとして用意しておけば良い。シナリオとして最悪の場合の撤退戦略まで作っておけば、後顧の憂いなく勝負できる。


ネスレ日本は、どうやって戦おうとしているのだろうか。


機会はある、と同社は日本市場を見ている。確かに総人口は減るが、この先30年ぐらいの間、高齢人口が確実に増える。そして高齢(二人暮らし&単身)世帯を中心に、世帯数は増えている。だから、高齢者に対する価値提供に徹底すれば勝機はあると踏む。こうした思考プロセスから、商品(=Product)が自然に導かれてくる。医薬品と食品の狭間にポジショニングを取る栄養補助食品である。



このProductをどのようなチャネルで売っていくのか(=Place)。世界規模で集めた豊富なデータと知見を理解してくれる相手、すなわち病院や老人保健施設老健)ルートが、まず浮かんでくる。一つの施設に入り込むことができれば、ある程度の量を見込める。だから自社の営業担当がきちんと説明をして回る。


一方では、エンドユーザーに対する直販にも取り組む。こちらは通販で、コールセンターにはオペレーターとして看護婦を待機させる。単なるオペレーターではなく、看護婦をスタッフとしてアサインすることで差別化を図っている。


少子高齢化は、何も日本だけの専売特許ではない。日本から5年ほど遅れたところに位置するのが台湾と韓国だ。そして、この両国を猛烈な勢いで中国が追い上げている。今や上海の出生率は0.6ぐらいしかないという。もちろんヨーロッパもペースの違いはあれ、同じトレンドにある。


要するに日本での成功事例は、この先、世界中で展開可能だ。日本は、少子高齢社会で成功するビジネスを模索するための、壮大な実験場といえる。日本市場をこのように捉えて、さまざまなビジネスモデルを試している企業は、既にいくつもある。そんな視点からは、また違った日本マーケット像が見えてくるはずだ。



いよいよ大阪でマーケティングセミナーを開催します。
ぜひ、ふるってご参加ください。

【大阪セミナー】
名古屋・東京に続いて大阪でも募集を開始しました!
<5月28日(月)18:30〜21:00・西天満にて>

『ポーター×コトラー 仕事現場で使えるマーケティングの実践法が2.5時間でわかる本』出版記念セミナー

「傾きかけたお店、あなたは立て直せますか?」
〜経営者の視点で学ぶ『使える』マーケティング

https://www.insightnow.jp/communities/application/132
※お申し込みページに進むと、最初にログイン登録が求められます。お手数ですが、ご容赦ください。



昨日のI/O

In:
MBAビジネスライティング』グロービス
大阪大学薬学部・中川教授取材
Out:
近畿大学水産研究所原稿
某社IRラフ原稿

昨日の稽古:

懸垂・腹筋