人呼んで”トラブルバスター”


ボストンの電話帳に載ってるよ、『タフ』という見出しのページにな


と書いたのは、作家ロバート・B・パーカー。彼は、自分が創りだした魅力的な探偵スペンサーを、こんなふうに紹介した。これに倣って、次のような言葉で人に紹介したくなる建築士がいる。


一級建築士の名簿に載ってるよ、『トラブルバスター』という見出しのページにな」


傍で見ている人間が、ぜひ、その人について語りたくなる。そんな魅力的な建築士である。その名を仮にH氏としておこう。トラブルバスターとは、その元の言葉に遡るなら「Trouble Buster」、困りごとをやっつける人である。


なぜか、彼が関わる建築には、ちょっとした(実は結構な)トラブルが起こる。もちろん、いつもそうだというわけではない。ただ、建築士平均からすれば、あるいは問題発生率の中央値から判断すれば、いささか多い部類ではあるだろう。


例えば、土地に絡む問題。その売主が一癖も二癖もあるような「やにこい(業界用語らしくて、意味は不明だが、何となくニュアンスが伝わるでしょう)」人物がいたとする。ここで契約前に、土地に問題があることが判明した。


本来なら、彼は建築士である。施主が居て、工務店が入り、建築士工務店から発注を受けて仕事をする。土地の売買は、施主と売主の話だ。そこに工務店が絡むことはあっても、建築士が交渉の前面に立つことなど、まずあり得ない。


ところが、話がこじれていくうちに、誰もが彼に、問題解決を期待するようになる。みんなにそう思わせる空気感をまとっているからだ。


その独特な空気感は、彼の言葉に要約される。
「建物は、建てられるためにある。関わった案件は、必ずきちんと建てたい」
「だからといって、抜け穴を探して潜り抜けるようなことはしない。複雑な話こそ正論。最後まで筋を通すことが、結局は誰もが納得する解決策になる」


普段話をしている時の、ものごとに対する彼の判断を聞いていても「確かに、それが正しい」とか「そう言われると反論のしようがない」と思わせる言葉ばかり。これは勝手な推測だけれど、常に真っ向勝負を挑む彼の性格は、幼い頃からいそしんだ剣道に養われたのではないだろうか。


胆力があるのだ。


そして、正しいことを真っ当に主張するわけだから、誰が相手でも臆するところがない。時に声を荒げることもあるらしいが(普段の姿からは信じられないが)、それは怒気にかられてではなく、正義心から言わざるをえない、といったふうなのではないか。だから、こじれた話の最後に、彼が決めの言葉をいうと、誰もが納得するという。


と書くと、いかにも無骨なデザインをしそうな建築士と思われそうだが、そこは絶対に誤解しないでいただきたい。立地条件を活かし、施主の求めを言葉にならないレベルまで汲み取り、自らの感性を加える。建築を知らない人間が見ても「カッコいい」デザインである。


内装にも気を抜かない。例えば壁紙一つとっても、そこまでこだわるかといったレベルだ。もちろん「収まり」の良さはピカイチ。ミース・ファン・デル・ローエの言うとおり「神は細部に宿る」のである。


shareKARASUMAには、そんな人がいます。他にもすごい人がいます。すごいといっても近寄りがたい雰囲気とかではまったくなくて、前にも書いたように、とても穏やかな空間です。できれば、他の会員さんのことも、少しずつご紹介していければと思っています。



アトリエ栖風 一級建築士事務所 代表
橋本 尚之氏

昨日のI/O

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某大学取材
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ジョギング、筋トレ、スイミング