なぜかキャプテンになる人



中学テニス部、高校バレー部、大学バレー同好会


いずれもキャプテンを務めた。中学入学時は野球部で、テニス部には途中から入った。もちろん、それまでにテニスなどやったことがない。それでもキャプテン。高校で入ったバレー部も、当然、最初はド素人である。まわりには中学時代からの経験者が多く、なかにはうんと体格に恵まれた人もいた。


けれども、バレー部の監督がキャプテンとして選んだのは彼。このチームは県大会を勝ち抜き、近畿大会に出場する。大学の同好会では、卒業していく先輩からの指名でキャプテンになった。


生まれながらにしてキャプテンシーの備わっている人がいる。キャプテンを務めたことのある人なら、次の世代の誰がキャプテンシーを持っているのかがわかるのだろう。だから選ばれるべくしてキャプテンとなり、選ばれるとまわりの同級生も納得してついていく。


そんな彼が、起業を考えたのは大学2回生の秋だった。その少し前、夏休みに彼は出身地の兵庫県香住町(現・香美町)に赴き、地元のために、何かできないかと考えた。地域貢献で何かの価値を提供できれば、それがビジネスになるのではないか。誰かに何らかの価値を提供して、対価を得てこそビジネス。この真理を本能的に理解している人である。


やがて事業として立ち上げたのは『0−Note』。学生に広告付きルーズリーフのノートを無償で提供するビジネスである。学生をターゲットとするスポンサーは安価に、ピンポイントで広告を届けることができる。学生は無料で勉強に役立つノートを手に入れることができる。価値と対価の真理に適ったビジネス、だから大学も支援した。学内に配布用のスタンドを設置してくれた。


次に展開したのが、京都でのフリーペーパービジネスである。京都を訪れる観光客にとって、気軽に使えるトイレの地図は、価値ある情報になる。ここでも、発想の起点となっているのは、顧客に対する価値の提供である。


そしてフリーペーパーを手がけている時、コンテンツのデータ化に気づいた。データなら、例えばiPadなどのタブレット端末や、スマホに提供できるのではないか。そんなアイデアが頭のなかにもやっと浮かんでいた時、彼はあるシーンを目にする。


外国からの旅行者が、分厚い観光ガイドと地図をためつすがめつしながら、悩んでいる姿である。おそらくは、次に行きたい場所までの経路がわからないのだろう。


彼らにタブレット端末で京都情報を提供すれば、重いガイドブックなんかいらなくなるのではないか。タブレットにはGPSが付いているから、現在地が一目瞭然にわかるし、そこから目的地までの経路も表示できる。


たぶん、この瞬間、彼の頭の中で、シナプスが発火したのだろう。脳内を電気信号が駆け巡った。この閃きを寝る間を惜しんでビジネスプランにまとめた。同時に、京都に来る観光客が、最も求めている情報を確かめるために、京都駅で400人のツーリストにアンケートも行った。


その結果わかったこと、求められているのは、やはり地図と交通情報。閃きは確信に変わった。学生対象のビジネスプランコンテストに出場し、賞を取った。資本家の強力な後押しも得た。


そして立ち上げたビジネスが『TRAVEL PAD』である。テザリング機能のついたタブレット端末に、地図やショップ情報、翻訳ソフトなどを盛り込み、フェィスタイムを使ったコンシェルジェサービスまで提供する、タブレット端末の貸出サービスだ。


このビジネスは、京都に来る外国人旅行客への価値提供になる。そう判断した京都市交通局協力会が、京都駅前にあるバスのチケットセンターでの、端末の貸出業務を請け負ってくれた。京都駅に着いた観光客がまず訪れる観光案内所「京ナビ(正式名称:京都総合観光案内所)」では、デジタルサイネージでのサービス告知と併せて、案内チラシを置いてくれた。


京都を代表するホテルでの貸し出しサービスも試験的に始まった。サービスをスタートして2ヶ月弱、まさにこれからが本番である。キャプテンシーのある学生起業家・上治太紀さんをshareKARASUMAに集う各分野のプロが応援している。顧客を紹介してくれたり、提携相手を引きあわせてもらう。shareKARASUMAのオーナーが経営するホテルでもチラシを置いて告知をしてもらっている。


高校時代に彼は、全国模試の世界史で1番を取った。その頭の中には、歴史上の人物が要所で下した判断がケーススタディとしてしっかりと刻み込まれている。歴史に関する深い造詣と持って生まれたキャプテンシーを駆使して、shareKARASUMA発のスターベンチャーをめざす。



株式会社アドリンク
代表取締役 上治 太紀




昨日のI/O

In:
某大学・学生取材メモ
Out:
某学会原稿

昨日の稽古:

ジョギング