余白が人を伸ばす



偏差値50前後


決して高いわけではない。けれど、4年(あるいは修士まで入れて6年)を、この大学で過ごすと企業から高い評価を得られるようになる。その結果が、常に95%近くの就職率となる。しかも就職先は大手企業が多い。


学生の力を伸ばすために、さまざまな取り組みを行う。まずは数学。理系の基礎、というよりもおそらくは、ものごとをきちんと考える力を養うための数学だ。それは決して難解な数学でなくていい。高校数学を一からきちんとやり直せば、その後の社会で必要とされる「筋道立てて考える力」は、十分に養える。


その上で、研究と課外活動の二本立てで、学生の力を伸ばす。課外活動とは、例えばエコカーであり、人力飛行機であり、ロボコンである。あるいは地域活性化のためのプロジェクションマッピングであり、街の夜を彩るイベントである。


エコカーも、ロボットも学生たちが自ら、工具を使って創りだす。そのための工房が用意されている。旋盤をはじめとする本格的な工具を扱う際には、プロが学生をサポートする。駅でのプロジェクションマッピングなどでは、関係諸機関との折衝も行う。


もちろん、すべてチームを組んで取り組む。だから、チームとして活動する際に必要な「心構え」が自然に身につく。こうした活動と研究が結びつく。


例えば人力飛行機の翼を自分の手で作る。翼の表面の仕上げは、どのようにあるべきかを自らの指先の感覚で悟る。その感覚が、翼を設計する理論の学びを深める。ただ、コンピュータ上だけで解析するのではなく、頭のどこかに残っている手触りと共に理解する。


ロボット然り、自動車もまた同様。ほかのあらゆるプロジェクトと研究がつながっている。純粋な研究ではないのかもしれない。けれども、企業が求める、社会で即戦力となる力が、きっちりと養われることになる。


そして、学生の力を伸ばす。というか、学生の力が、自然に伸びていくのを後押しする空間。全体構想をひとりの建築家がデザインしたキャンパスには、開放感がある。




その象徴が学生食堂だ。効率だけを考えるなら、高い天井は無駄である。ここに2階フロアを作っておけば、昼時の混雑状況は緩和されるだろう。けれども、ここは単なる食堂ではない。夜10時まで開放される自習スペースでもある。


学びの空間、であるならば、高い天井による開放感、天窓から射しこむ陽の光、2階までの高さで全面に開いた窓が望ましい。その余白が学生の力を育む。


学生を伸ばすこと。これを建築デザインのコンセプトとした学び舎は、たぶん、他にはほとんどないのではないか。流行りのラーニングコモンズなどもいくつか見せてもらったことがあるが、そこで考えられているのは、あくまでも機能性である。



学生が伸びていくのは、どのような空間なのか。なぜ、この大学では一年中、多くの学生がいつもキャンパスにいるのか。体感的に理解できる気がした。


実は理系で、偏差値50程度の学生が、きちんと教育すれば、もっとも伸び代があるのです。そのとおりだと思う。


昨日のI/O

In:
『ジョナサン・アイブ』
Out:
某原稿プロット5枚

昨日の稽古:

ジョギング