オヤジって良いの or 悪いの?


ターゲットは「ちょい悪オヤジ」。セイコーウォッチが出した新ブラン
ド・高級腕時計のことである。ここで激しく悩んだ。というか、ここ二
年ぐらいか、不思議に思い続けていたことがある。


雑誌『LEON』から始まった(と個人的に思っている)「イタリヤオ
ヤジ」ブームとオヤジの関係だ。何年か前までは「オヤジ」といえば、
間違いなく蔑称であった。もちろん、今でも「オヤジギャグ〜」なんて
いわれるのは、明らかに「あんた、ダメポ」と同じ意味だろう。


ちょっと脱線するけど、最近の小学生はめっちゃ腹立つねん。空手の練
習に子ども4人ぐらいをクルマに乗せていくんやけど、その車中で、少
しでもみんなの気分を盛り上げてやろうと、ない知恵を振り絞ってギャ
グを連発する。と、どんな反応が返ってくるか。


最初は「さぶいでぇ〜」とか「それオヤジギャグやん」だった。それが
いつの間にか小さな声で「サブッ(カタカナのニュアンスですね)」へ
と変わる。何かいったかいわなかったかわかんないぐらいの短いフレー
ズで発音されるのが、この場合の特徴だ。


そして、あぁ、最近では私が、すばらしくおもろいことをいっても、誰
も何もいってくれないのだ。「何か、いうてくれよ」って、小学校3年
生に強制する自分もどうかと思うけど、無視することもないんじゃない
か。ちなみに「何か、いって」とお願いすると、「なんかゆうた」なん
て会話にもなっていないのが最近ですね。


閑話休題


と、ことほどさように「オヤジ」とはネガティブイメージにまみれた言
葉だったはずだ。「オヤジくさ〜」なんていわれた日ニャあんた、ほと
んどサイテーと落ちこまなきゃなんない。若い子そばに来て「くんくん、
あれえ何かくさいんちゃう、あっオヤジが混ざっとるしか」なんてオヤ
ジハズシされたりね。


ところが、この「オヤジ」がどうも特定の文脈の中では、プラス評価用
語に変わったらしい。その流れを作ったのは『LEON』だとにらんで
いる。うまいね、見事なマーケティング手法だと思う。


「そうか、オレはもうオヤジなんやな、きっと二度とええことなんかな
いんやろな。そんなんやったら、ファッションとかに金使ってもしゃあ
ないな」と諦めていた世代(というより、本当はクラスターと捉えるべ
きだろう)に、「いやいや、そんなことおまへんで。イタリアなんか、
オヤジの方がもてるんでっせ」と。そのためには、こんなカッコせんと
と。


読まれたことがある方なら、おわかりだろうが『LEON』、見事なま
でのカタログ雑誌となっている。シンボルアイコンは、パンツェッタ・
ジローラモ氏。NHKのイタリア語会話で講師をしていた人だ。でもな、
ほんとはこの人43歳で自分のことを「ぼくはまだオヤジじゃないけど
ね」っていってるんですけどね。それに、こんなカッコいいオヤジ、ふ
つうおらんやろ。


ちょっとネットで探してみると、次のようなオヤジの定義があった
http://www.geocities.co.jp/Bookend-Soseki/5602/


要約すると
ウスイ(髪の毛ですね)、フトイ(特にお腹まわり)、クサイ(加齢臭
やね)、サムイ(ギャグのことらしい)、アブラ(ぎってて)、ヘコキ
(いつでも、どこでも、だれといても)、スケベ(ふ〜ん)などなど。


少なくともジローラモさんは、このどれにも当てはまらんやないの。と
いうことは、「オヤジ」ということばを巧みに使ってはいるが、少なく
とも雑誌主導型・最近の『オヤジブーム』とは本物のオヤジをだまして
ですね(というか錯覚させて)、購買意欲をあおるという手法ではない
のか。


このハチャメチャな状況をさらに混乱させているのが、ワケわからん日
本語の使われ方である。たぶん、これは意図的にされているのだと思う。


「オヤジ」という言葉の意味が、次のように変化してきている。
オヤジ(ダメダメ的形容詞)→イタリアンオヤジ(カッコいい的形容詞)
→ちょい悪オヤジ(ようわからんけど、かなりいけてる的形容詞)。


この「ちょい悪オヤジ」とは何ぞや。


用語分析してみる。
オヤジ=マイナスイメージ
+悪=本来ならマイナスイメージ
+ちょい=マイナスイメージ


何じゃこりゃ。

二重否定の否定は否定やで。ほら(ー)×(ー)×(ー)=(ー)。
仮に二重否定じゃなくて強調だったとしたら(ー)+(ー)+(ー)=
−3みたいな。


ただのオヤジじゃダメなだけ。ほんまに悪いオヤジは、もっとアカン。
でも、ちょっと悪いオヤジやったら、実はベリーグってか。これってた
ぶん、誰かが仕掛けているんだと思うけど、タチ悪いなあと思いました。


かくいう私も45歳。みごとにオヤジ真っ盛り年齢である。でも、冒頭
の時計を自分が買うことは、100%ありえへんやろな。加えると「ちょ
い悪オヤジ」に見てもらうために最低でも49万円もする腕時計買うオ
ヤジがほんまにおったら、その性根こそが「オヤジ」なんとちゃうか。






本日の稽古:

  できるかなぁ。そうろっとやってみようっと。