書くことの意味
あなたは算数が好きですか?
こんな問いかけから、始めるのが「問答ゲーム」。三森ゆりか(つくば
言語技術教育研究所 所長)さんが提唱している子どものための論理ト
レーニングの第一歩だ。
もし、お子さんがおられるなら、ぜひ、この質問をして試してみてくだ
さい。さて、どんな答えが返ってくるか。
まずイエス/ノーは明確か。「ぼくは(私は)」と、主語をはっきり言
えているかどうか。たとえば、「はい、ぼくは算数が好きです」といっ
たように。これで第一レベルをクリア。問いかけに対して、少なくとも
自分の意思を答えられている。
次は、その理由をいわせるようにする。「はい、わたしは算数が好きで
す。その理由は……」。いま教えている小学校3年生レベルでは、最初
は算数が面白いから、楽しいから好き。面倒だから嫌いぐらいの答えに
なることが多い。
第3ステップでは、理由の数を指定する。つまり「はい、ぼくは算数が
好きです。その理由は3つあります。まず〜」。3年生ぐらいなら、こ
こまでくるのは、それほど難しくない。ポイントは、回答を必ず書かせ
ること。これが次のステップへレベルアップする時に、とても重要にな
る。
次のステップは、答えの指定。
あらかじめ「この質問には、必ずイイエ(あるいはハイ)で答えてくだ
さい。そして理由を3ついってください」と進める。これによって、自
分とは反対の意見があること、反対意見にも理由が存在することに気づ
く。
そして理由を深堀りさせる。
算数は好きですか。ゲームは好きですか。などの質問にイエスで答える
場合は、理由はたいがいが「おもしろいから、楽しいから」といったも
のになる。そこで突っ込みを入れる。「算数の面白いとゲームの面白い
は一緒じゃないよね、どう違うの?」などと問いかけ、「算数がおもし
ろい理由は何かな」と続ける。
もちろん、これも書かせる。別に作文の練習をしているわけじゃないの
で、マス目ぴったりにきれいに書かせる必要はない。大事なのは、自分
の思考プロセスを何となくでいいから、視覚的に見える状態にすること。
構造的には
(算数は好き?)
↓
好き
↓
(なぜなら?)
↓
おもしろいから
↓
(なぜ、どこが、どうおもしろいの?)
↓
頭の中で考えているのと、考えを紙に書き出すことは、まったく次元が
違ってくる。
3年生でこれぐらいまでを書けるようになって欲しいなぁと思っている。
で、話は飛ぶのだが、大橋禅太郎の『すごい会議』を実際にやっている。
すごさを産み出すカギは、会議に参加したメンバーに、発言ではなく作
文させること。通常の会議では、意見を言う。のだが、意見の言い合い
では、実はあまり会議の意味はない。ブレストならば、言い合いでもい
いのかもしれない。が、それでも書く方が、たぶん効率的だ。
なぜ、書くことがよいのか。
理由は次の2つだと思う。
1.他人の意見に左右されない。
せえ〜の、でみんな一斉に書き出すわけだから、少なくとも書いている
間は、他人のことは忘れて、自分の考えに集中できる。
2.自分の考えを客観視できる。
自分は、〜と思う/考える、と書き出してみると、普通は、なぜならを
同時に、少なくとも潜在意識では考える。これが大切。
この『すごい会議』式会議を2社でやってみた。もちろん、この間に自
分のファシリテイト能力が急激に進歩したりはしていない。にも関わら
ず参加者には大きな変化があった。その変化は2つ。
まずこれまではあまり発言しなかった人が発言するようになった。発言
する前に自分の考えを紙に書く効果だ。そして発言の質が高まった。こ
れまでなら、他人の意見に対する批評/否定発言をしがちだった人が、
そうはいかなくなる。他人の意見ではなく、自分はどう思っているのか
を考えなければならない。
このやり方は、まだ始めたばかり。だから具体的に業績があがるといっ
た成果までは出ていない。が、予感はある。メンバー各自が前向きに考
える筋道を身に付けるようになるし、そうなれば次は必ず行動につながっ
ていく。
書くことが苦手という人は多い。その理由は実ははっきりしている。小
学校以来、書くことをきちんと教えられていないからだ。読書感想文や
好き勝手な作文を書くことと、自分の意見や考えを理由を付けて書くこ
とはまったく違う。
だからといって書くことが大変とか難しいと構える必要もない。ちょっ
と練習すれば、誰でも書けるようになる。もし字が下手なら、パソコン
を使えばいい。
できるだけ書くことを意識する。会議は書くことから始めてみる。ぜひ、
いちどお試しあれ。
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