『国家の罠』はどうすごいのか


国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて

国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて



512日間で220冊。


一年以上にわたる独房生活を、読書と思索にとって最良の環境だった。
こう割り切って語れる巨人がいた。『国家の罠』の著者・佐藤優氏であ
る。鈴木宗男氏の事件に絡んで外務省の黒幕の様な取り上げられ方をマ
スコミにされた人物だ。覚えている方もいるだろう。


この事件がマスコミで報道されたときには、田中眞紀子氏が大臣となり、
外務省自体がかなりごたごたしていた時期だった。事件の中心人物がヨ
ーロッパに逃亡したり、機密費が明らかになったりで、外務省は腐って
いるとか、鈴木宗男氏についても相当な悪人物としての報道一辺倒だっ
た記憶がある。


その中で佐藤優氏については、外務省のノンキャリアで鈴木氏べったり
の人物と伝えられていたはずだ。が、この本を読めば、そんなことはす
べてでたらめであったことがわかる。逆にいえば、いつも言われ続けて
いることではあるけれど、いかにマスコミがいい加減で、ある筋からの
情報操作に乗っているかがよくわかる。恐ろしいぐらいだ。


佐藤氏がいかに優れた人物であるかは、この本を読めばわかる。この書
の内容は自己弁護ではない。佐藤氏(さらには鈴木氏にもつながるのだ
が)なりの視点から、真剣に国益を考えて行動していたことが、これを
読めば誰でもわかる。なぜなら、あくまでも客観的な視点からすべてが
記述されているからだ。


ここまで自分を客観視できる人はめったにいないだろう。しかも論理の
構成が単純で、だからこそ筋道に破綻が一切ない。


おそらく佐藤氏は、外務省内で浮いた存在だったのだと推測する。いつ
も本質を的確に突く人物は、まわりと容易に妥協することができない。
しかも本質を理解できる人間は限られているから、理解できない人間と
ぶつかることが多い。そんな人物の典型だったのではないか。


しかし、眼力のある人物なら、そうした人間の力を見抜くことができる。
うまく使うこともできる。鈴木宗男氏と佐藤氏の関係はそうしたものだ
ったのだろう。さらに本件を担当した検事も実に優れた人物だったのだ
と思う。


この検事も本質を理解できるが故に本質以外の動機で動いている組織か
らはパージされてしまった。その意味では、本書は佐藤優、西村尚芳と
いう二人の優れた知性の共作ともいえるだろう。


国益とは何か。外交と何か。義のために生きるとはどういうことか。信
念と知性に支えられた人間が、いかに強く生きられるか。そんなことを
学べる良書だと思う。


鈴木宗男氏についての見方が変わったこと、田中眞紀子氏についての見
方が間違っていなかったことなども、この本を読んで得られた収穫だ。
あるいは、いろんな意味で小泉純一郎が、日本の転換点に登場したトリ
ックスターであるかもしれないことも。




昨日の稽古: