Googleがビッグブラザーになる日


一億円を一人の人からもらう
一円を一億人の人からもらう


結果は同じく一億円。そして誰だって、誰かから「一円だけでええからくれへん?」と頼まれれば、イヤとはいわないだろう。だから何もないところから一億円を手に入れようと思ったら、一億円を一人の人からもらうよりも、一円を一億人からもらう方が、現実的ではある。


現実的ではあるのだけれど、実際に一億もの人を一人ひとり訪ねていき、「一円ください」なんてやるのは、やはり実現不可能。だから、誰もやらないし、できない。しかし、もし一億人に「一円だけでええからくれへんか?」と簡単に頼めるようになったらどうか。ここでいう「簡単に」を具体的にいうならば「1円以下のコストで」あるいは「ほぼコストゼロで」という意味である。どうもネットはその道を開いたようだ。


ネットは、社会の中のある部分のコスト構造を革命的に変えた。これがネット革命の本質の一つだと『ウェブ進化論梅田望夫』は指摘している。


ロングテールなどという現象が成立するのも、コスト構造でパラダイムシフトが起こったから。ロングテールと言えばAmazonだが、確かにリアルの書店ならば本を在庫すると必ずなにがしかのコストがかかる。しかしAmazonのように本をデータで在庫しておけばいいのなら、コストはかからない。だからAmazonはリアルの書店の何十倍にも当たる230万点もの書籍を扱うことができる。


またロングテールは何もAmazonだけの十八番ではない。より注目すべきはGoogleロングテールである。しかもGoogleロングテールによって狙っているのは、まったくのフロンティア。まさに一億人の人から一円ずつ集めることをビジネスにするようなものだ。


これが『アドセンス』の正体である。


実際のところ『ウェブ進化論』によれば、Googleは自らをロングテール追求会社だと宣言したらしい。つまり、これまでなら広告などを出したこともない世界中の企業から、ごく少額の広告出稿を募ることで、莫大なマーケットを創りだそうというわけだ。


この『アドセンス』というネット広告はクリック連動型、つまり成果報酬型である。そしてインターネットというグローバルな空間での広告出稿でありながら、世界一(たぶん?)の検索精度を誇るGoogleの技術力によって、クリックされる見込みの高いリクエストを選んで表示されるようになっている。


決して「安かろう・悪かろう」ではないのだ。


その出稿料金は、ワンクリックあたりわずか7円から。ものすごく敷居が低い上に、料金は出稿する側が自分で好きなように決められる。広告出稿にあたってはいちいち代理店などを通す必要はなく、自分でテキストとキーワードを考えればよい。それこそ10分でできてしまう。また3時間ごとに自分が出した広告の掲載状況やクリック数データを知ることができるから、成果が今ひとつであれば、どんどん自分で変えていけばいい。


およそ世界にどれだけの数の企業があるのかは知らないが、仮にアメリカと日本だけに限って考えても、Googleが開拓したマーケットの潜在規模は少なく見積もっても兆円単位になるだろう。しかも、広告に関わる既存のどんな企業が狙ったとしても、このマーケットではGoogleのもつコスト競争力には絶対に勝てない。


従来の広告代理店とGoogleではコスト構造がまったく違う。だからGoogleの真似をやろうとしても、それは不可能である。今のところ、Googleの規模で、Googleのようなコスト構造をもった企業は他にないようだが、そうした企業が今後出てくる可能性があるのかどうか。あるいはすでに登場しているベンチャー企業の中に、そんなコスト構造を持つ企業あるのかどうか。それとも、もしかしたらGoogleだけが、特異な存在となっていくのかどうか。


Googleが創りだしている価値の源泉は人である。同社はコンピューターサイエンスの最先端で博士号を持つ人材だけを何千人も集めているという。優れた能力をもつ人が持てる力を発揮していることがGoogleの強みだとすれば、Googleに勝つためには、同じように優れた人間をGoogle以上に引っ張ってこなければならない。ということはGoogleに勝てる企業が今後出てくる可能性は限りなく低いのではないだろうか。


もしかして、このままGoogleが成長を続け、世界中のあらゆる情報を支配し、世界中から優れた知性を集め続けるようなことがあれば、Googleこそが『1984/ジョージ・オーウェル』で描かれた『ビッグブラザー』になるのではないか。そんなことを思った。



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