ダブル・バインドの危険性


<親、またはコーチ>なんで、あかんかったかわかるか?
<子ども>・・・。
<親・コーチ>ほんまにわからんのか!
<子ども>(しぼりだすように)○○○やったからですか。
<親・コーチ>それがわかってて、なんででけへんのや
<子ども>・・・。


こうしたコミュニケーションを「ダブル・バインド(二重拘束)」という。子どもにとっては、返事をしなければ怒られ、何か返事をしても怒られる。どう対応しても罰せられるしかない状況に追い込まれる子どもは「この人(親なりコーチなりですね)には、服従するしかない」と観念することになる。


というと「あるある! こういうの、あの糞上司のしゃべり方にそっくりじゃないか」と思われる方もいるかもしれない。実はこのダブル・バインド的コミュニケーションは、一方的な従属関係を作るための極めて有効な戦術なのだ。こうしたコミュニケーションを意図的に使って「あっ、この人には敵わない」と手っ取り早く思わせてしまえば後が楽になるのだから。


そうした一方的な関係を作ることが必要な場合に、それがダブル・バインド的状況であることを自覚した上で、期間限定的に「あえてやる」のはあり、かもしれない。しかし気をつけたいのは、そうした状況で支配的な立場にポジションをとれる人間にとっては、その関係が自分にとって絶好のフラストレーションのはけ口になりがちなことである。


たとえば少年スポーツの指導者。本来なら、子どもたちの成長の糧となるべきスポーツがいつの間にか勝利至上主義に陥り、試合に負けでもすれば「なんで負けたんや!」「わかってて、なんでできんかったんや」と子どもたちをひたすら追い込んでしまう。挙句の果てに体を壊したり、精神的に追いつめられたりしてしまう子どもたちが出てしまう。


もちろん指導者は善意でやっているのだと思う。子どもたちのために休日を返上してまでがんばっているはずだ。しかし、それが結果的に子どもたちに強いストレスを与えてしまうかもしれないリスクを、意識しておいた方がいい。なぜならダブル・バインド的状況で上位に立つことには麻薬的な快感があるからだ。この快感はある種の全能感と言い換えてもいいぐらい強力でもある。


会社では上司から文句を言われる鬱憤がたまりまくっている。しかし少年団では自分がトップであり、子どもたちは自分に服従している。そんな状況が危ない。


と考えてくれば、これは企業内のコミュニケーションでも容易に同じような状況が起こり得ることがわかるだろう。クライアントのところで散々なことをいわれた上司が、会社に戻ってきて部下に対してダブル・バインド的会話を強いる。もとよりこれは言葉本来の意味でのコミュニケーションではなく、上司にとっての単なるストレス発散でしかない。


あるいは親が子どもに対して、また夫が妻に対して。ダブル・バインド的状況は、相対する人同士の間にほんのわずかな力関係の違いがあるだけで簡単に発生しやすい。それだけに気をつけなければならない。


コーチングコミュニケーションでも、もっとも注意しなければならないのが、このダブル・バインドだ。コーチングでは相手に対して質問を重ねながら、相手の気づき・やる気を促していくことがポイントなのだが、下手に質問をすると逆に相手を追い込むことになってしまう。だから、何か問題が起こったときほど質問の仕方には細心の注意を払わなければならない。


ポイントは、問題の原因を相手の属人的な問題に落とし込まないことだ。たとえば宿題をこなせない子どもがいるとする。その場合に、次のようなコミュニケーションは最悪となる。


「なんで、宿題ができなかったの?」
「う〜ん、やる気が起こらなかったからかな」
「宿題はやらなくてもいいものなの?」
「そんなことないよ。ちゃんとやらなあかん。それはわかってるねん」
「わかってて、なんでできなかったん」
「・・・。もうわかったって。今度からちゃんとやるから」


これでは、何の問題解決にもなっていないことがわかるでしょう。コーチングコミュニケーションでいちばん大切なことは『変える』ことである。何を『変える』のかといえばあくまでも行動である。性格や気質、さらには人格を変えるなんてことは考えない。まず行動を、ほんの少しでいいから変える、その手伝いをするのがコーチングである。だから前述のコミュニケーションなら


「昨日は宿題をする時間がなかったんだね」
「そうやねん。いつの間にか寝る時間になってて」
「ところで昨日は何をしてたっけ?」
「え〜と、あれして、これして・・・」
「忙しいんやなあ。それで宿題をやるのを忘れてたんや」
「そうそう。やらなあかんと思ててんけどなあ」
「そうやんなあ。やらなあかんのはわかってるやんな」
「うん」
「そしたら、どこで宿題をやったらよかったか、考えてみよか・・・」


といった具合にポイントを相手の考え方や性格などではなく、あくまでも行動にフォーカスする。相手の行動だけを客体化するとでもいえばいいか。相手の行動だけを相手の人格から切り離して、一緒に考えるべき課題としてあげてしまうとでもいえばいいか。


そうすることによって、相手も自分の行動を冷静に振り返ることができる。そうすれば、なぜ、問題行動が起こってしまったかがわかりやすくなる。そして行動は、気持ちよりも比較的簡単に変えることができる。行動を変え、何らかの結果が付いてくれば、気持ちも変わっていく。


力関係が一方的になりやすい立場にあるときほど、こうしたコーチングコミュニケーションを意識したい。でなければ、ダブル・バインドの誘惑に負けてしまう。



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