交渉でのイニシアティブの取り方


あえて49%を取りに行く


タフな国家間交渉でのゴリ押しは得策ではないと。むしろ

妥協に関して外交官は五十一%を獲得しようと努力するが、これでは本当に難しい交渉はまとまらない。むしろ相手に五十一%を譲り、日本側は四十九%でいいというハラを括れば本当に難しい交渉をまとめることができる。
佐藤優「国家の自縛」産經新聞社、2005年、27ページ)


外務省のラスプーチンなどとまったく本質から外れたあだ名を冠せられた佐藤氏だが、その主張は極めてシャープかつロジカルである。この49%を取りに行く交渉術そのものは氏の上司だった人物の話から引いているが、何ともクールに実利的ではないか。


この交渉術のポイントは2つある。


一つには交渉そのもののイニシアティブは自分の方に確保することだ。相手とフィフティフィフティの押し合いを続けた後、最終的に押し切られて49%となるのではない。最初から自らの着地点として49%を胸の裡に秘めておき、交渉にかかるのである。意識としては相手に対しては70%ぐらいを取りに来ているのだと思わせておいて、交渉を常にリードしながら最終的には自分の方が少しだけ引くことで妥協する。相手には達成感を与えながら、実質的には2%の差しかない決着へと持っていける。


このプロセスが二つめのポイントに効いてくる。つまり国家間の交渉のように永続的な関係を前提とした戦いでは、時間軸を頭に置くことが絶対に必要だ。「損して得取れ」なのである。いま一歩譲ることによって得られるポジションを次ぎに必ず活かす。こうした戦略的な視点が欠かせない。「今回は大幅に(70%から49%と)譲歩しよう。しかし、これは次に取り返すぞ」と睨みを利かせておくわけだ。


ここで注目したいのは、やはり時間軸を常に意識することだろう。


交渉ごととなると、どうしても目先の勝ち負けにこだわりがちである。しかし何も国家間に限らず、日常的な交渉でもその相手との関係はたいていの場合、続いていくはず。そこを計算にいれることが必要だ。


ちなみに佐藤氏の視点はだいたい15年から20年先を見ているようだ。となると朝鮮半島の15年後はどう読めるのか。おそらく南北統一がなされているだろう。その統一はほぼ間違いなくナショナリズムの台頭につながる。となれば圧力は周辺諸国に向かうはずで、そうした圧力の高まりを望む近隣諸国はまずない。ロシアはどう思うか、中国はどんな反応を示すか。台湾は、モンゴルはと考えていった時に、日本が手を結ぶべきはモンゴルではないかと、佐藤氏は指摘する。


これを企業間取引に置き換えて考えれば、さすがに15年のスパンは長すぎると思うが、それでも5年、最低でも3年ぐらいの期間を頭に入れておいて、その間に自社と相手のステークホルダーがどう変化するかを読んでおくことが必要だろう。


もちろん15年後には中国もロシアも今とは相当に変わった国家となっているはずだ。その変化を読み解くキーワードは、個人的には資源だと思っている。それもおそらく水と食料、そして石油だろう。仮にロシアと中国の15年後を、こうした資源問題から考えればどうなるのか。そのときより資源小国である日本は、アジアの中で、ひいては世界の中でどんなポジションを奪れば、資源を確保できるのか。


これこそが政治家が持つべき大局観だと思う。で、次の自民党総裁候補の中に、こうした大局的な世界観をもった人物がいるのかどうか。少なくともいま名前が挙がっている人たちが語る15年後のアジアの中での日本像を、自分は寡聞にして知らない。


もちろん財政問題年金問題も、資源確保と密接に絡んだテーマではある。資源を確保するためには日本の場合は輸入に頼るしかないのだから、原資が必要となる。その原資をどこからひねり出すかと考えた場合に必ずリンクしてくるのが財政であり、年金なのだ。それはわかる。しかし外交戦略なくして今後の日本はいまの繁栄を維持していくことは不可能である。ましてや人口が減り、国力が相対的に低下していく中で、日本はどう生き残っていくのか。


そのあたりのシビアな世界観、交渉術を、安倍さん、谷垣さん、麻生さん(は出るのかな)には、ぜひ示してもらいたいものだ。




昨日のI/O

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昨日の稽古:富雄中学校体育館

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国家の自縛

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