mixiに上場リスクはないか


調達資金70億


9月14日にマザーズ上場が予定されているmixiは、06年度売上の約3.5倍もの資金を一気に調達することになりそうだ(日本経済新聞9月5日)。株式公開して資金がたくさん集まって「やれ、めでたし、めでたし」と手放しで単純に喜んでいていいものかどうか。


何より問題なのは、調達した資金の使い道が今のところ13億円程度しか決まっていないこと。そのわずかな使い道もサーバー設備の容量拡大のためらしい。つまり直接的には売上拡大にも利益向上にもつながらない資金用途というわけだ。そして残りの60億弱は「預金などで運用する」そうだ。そんなんで大丈夫なんだろうか。


同社の売上と経常利益の実績(05年度)&予想(06年度)は次の通り。
売上高:1,893→4,790(百万円)
経常益:912→1,720(百万円)


売上、利益共に大幅にアップする見通しで、それはそれで文句はない。しかし利益率を見ると48.2%→36.0%と12ポイントものダウンである。その理由として挙げられているのが、柱となる事業が変わること。すなわち05年度までは求人情報サイトの売上が全体の65%を占めていたが、これが今期は逆転しSNS事業がメインとなるようだ。今後は利益率の低い事業が主体となっていくこと、これが一つ懸念材料である。


戦略的にはよりmixiに依存する体質への舵を切ったわけだが、それが吉と出るか凶と出るか。結果は神のみぞ知る、なんて考えて投資する人はもちろんいないはず。mixiに投資する人は、その成長に期待して資金を注ぎ込むわけで、求めているのは当然、株主価値の向上である。


そして株主価値を向上させることを考えれば、調達した資金を預金などで運用されては困るのだ。だって預金で運用されるのなら、投資家としてはわざわざ手数料を払ってまでmixiに投資する必要はまったくない。そんなの自分でやればすむことだ。そうじゃなくてmixiの将来性に、その将来を切り拓く笠原社長の経営手腕に投資家は賭けているのだから、その期待に応えてもらわなければ納得できないだろう。


もとよりある程度の資金需要があっての上場なのだとは思うが、もしかしたら大株主となっているファンドからのプレッシャーに押されての株式公開という可能性もあり得る。もしそうだとすれば、mixiは困ったことになるだろう。必要ではない資金、それも自社の規模にあっていないような大規模な資金を手にすることは、相当なリスクである。


新聞記事によれば大株主となっているネットエイジグループ系のファンドも、サイバーエージェントとその系列ファンドも公開後には所有株を売却する方針だという。これが公開後の株価上昇を抑える大きな要因と記事には書かれている。


そもそも企業は、得た資金を元に新たな価値を創造し、その結果として対価を得ることで事業を継続して行く。だから売上20億の企業ならその規模なりの、あるいはそれが50億ならまたその器にふさわしいだけの資金需要があるのは当然だ。


しかし、今の時点でmixiに70億もの資金が必要だったかどうか。仮に必要なかったのだとしたら、この先しばらくmixiは極めてリスキーな状態に陥る。繰り返しになるが投資家は預金で運用してもらいたくて、mixiに資金を出すのではない。それなりの運用益を上げてもらうことを期待して資金を投入しているのだ。これが板倉氏が強調している株主資本コストの意味である。


このコストに見合っただけの収益を上げるだけのプランを提示できるかどうか。資金調達に関してmixiは株式公開以外にも別の選択肢があった。設備増強が緊急課題だったのなら、そのための13億は借り入れでまかなうことも可能だったはずだ。にも関わらずあえて借り入れ金利よりも高いことがほぼ間違いないはずの株主資本コスト(=運用益として期待されている利回り)のかかる公開を選んだわけだ。


とりあえずmixiの売上増加率253%、利益増加率189%のいずれかを丸々継続してめざせとまではいわれないだろうけれど、借り入れ金利よりはうんと高い運用益を求められていることだけは間違いないだろう。巨額の調達資金をどう運用し、どれだけの収益を上げていくのか。この先半年から一年の間に打出されるはずのmixiの新戦略が注目である。


まさかとは思うが巨額の資金を持て余すと、東大の先輩二人(堀江氏、村上氏ですね)のようによからぬ手法に走ってしまわないとも限らない。さらには、mixiのビジネスモデル自体がターゲットを限定しているだけに、どこまで今の調子で伸びていくのかが見えにくいことも心配だ(余計なお世話だろうけれど)。


万が一、そんな失望感が市場に生まれたりすると、株価下落→時価総額下落→一気に買収して解散=キャッシュで持っている預金を買収先がゲットでチャンチャンみたいなことも、あり得ない話ではない。60億近いキャッシュを持っている企業を55億で買えたとすれば、それだけで『何もしなくとも』『確実に』5億のキャッシュが手に入るわけですから。


もとよりIPOは一攫千金、創業者はとんでもない巨額の富を得られるチャンスである。だが、チャンスはリスクと裏返しでもある。リターンが大きければ大きいほど、リスクも巨大化している。経営者には、公開前とはまったく違った次元での戦略的思考や経営判断が求められる。その意味でも、今後の笠原社長の舵取りは見物である。



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