電話がタダになるとき


一日あたり22万人


スカイプユーザーの増加数である。単純計算でも年間8000万人ぐらいのペースでユーザーが増えることになる(日経産業新聞8月29日)。インターネットがなくならない限り、スカイプユーザーはこれからも増えていくだろう。ブロードバンドが普及していけば、ユーザー数の伸びに加速が付いても行くだろう。


そうなると電話はタダ、が常識となる時代がやがてくる。メールをタダで(厳密にいえば、プロバイダー料金と接続料金がかかっているが)使えるように、電話をただで使えるようになるわけだ。


しかもスカイプはメールと同じように、全世界が相手だ。であれば英語をある程度話せるようになれば、世界中の人と電話でコミュニケーションできる時代が目の前まで来ていることになる。こうした環境の変化はまず、英語を話せる/話せないでその人の将来の選択肢を大きく変えることになるだろう。これは教育の問題につながるので、ここではこれ以上突っ込まない。


それよりもNTTがどうなるのか。こちらの方が気になる。世界中にサービスを提供している電話会社スカイプの従業員は、全世界で350人しかいない。それでいてユーザー数は1億1千万人いる。かたや日本でサービスを提供している電話会社NTTの従業員は連結ベースで20万人、そのユーザー数は、仮に日本人が全員だとしても1億2700万人である。企業体としてみたときに、どちらが効率的かはいうまでもない。


そのNTTがスカイプをどう考えているかといえば、NTT幹部は佐々木俊尚氏の取材に対して、次のように答えたという。

Skype? そんなものには興味はないね。いま最大の危機はソフトバンク。対孫正義攻略が、第一だ
http://blog.goo.ne.jp/hwj-sasaki/e/ecaa05c0da095881baebc86910209042

何だか恐竜の最後を思わせるようなセリフだ。


もちろん今すぐにスカイプが普通の電話を完全に駆逐してしまうことはないだろう。スカイプの日本での登録ユーザー数は、まだ400万人である。現時点でのユーザーは日本でもイノベーター層にとどまっている。またいま50代以上の方たちがスカイプユーザーに雪崩を打ってシフトしていく可能性もあまり考えられない。


しかしいまの10代はどうか。スカイプならタダで話し放題なのである。彼等にとってはこれほど魅力的なコミュニケーションツールはないのではないか。あるいはいま小学生の子どもたちがティーンエイジャーになる頃にはどうか。タダでしゃべりまくることができる電話なのだ。あるいはいわゆるナナロク世代は、と考えていくと10年後には大きく景色が変わっている可能性が強い。


ここで注目すべきは、スカイプとNTTのビジネスモデルの違いである。


ユーザーに提供している価値は両社ともに同じ。コミュニケーションサポートである。ところが、コストは天と地ほども違う。その違いがどこから生まれてくるのか。NTTがオールドインフラ産業であるのに対して、スカイプはネットインフラをベースとして、その上に乗っかる形でのインフラ(ソフトインフラとでもいうべきか)産業である。これが決定的な違いにつながっているのだ。


スカイプが利用しているネットインフラを整備しているのが、たとえば日本ではNTTである(ほかにも電力会社などいろいろあるけれど)。ここで新しい議論が起こっている。スカイプ然り、YouTube然り、さらにはGoogleAmazonもみんなそうなのだが、ネットインフラの使用料はどこも払っていない。こうした企業群はいずれもネットインフラありきを前提としてビジネスを展開している。


ではネットインフラは誰が作り、維持していくのか。そのコストは誰が負担するのか。こうした問題が今後、新たにネットインフラを整備していく国では起こってくるだろう。すでにアメリカでも、これは大きな問題となりつつある。個人的には、ネットはこれからのインフラなのだから、その整備は国がやるべきことだと思うけれど。


とりあえず日本では今のところ、NTTがせっせとインフラを整備し、維持し続けてくれている。しかも「Skype? そんなものに興味はないね」といいながら。ずっとそうであってくれればいいが、いずれはいかに鈍い恐竜的頭脳であったとしても、自分たちが整備しているインフラをベースに、スカイプが圧倒的なコスト競争力をもち、自分たちの存続を脅かす存在になっていることに気づくときがくるだろう。


そのときネットインフラを誰が整備していくのか。日本国にそれだけの資金的ゆとりがあればいいのだが。スカイプが投げかけている問題は、今後の社会像につながる問題なのだと思う。



昨日のI/O

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