大人のオモチャ人気の背景にあるもの


小売市場規模:1兆2063億円 前年対比0.7%減


日本の玩具市場である(矢野経済研究所調べ、「WEDGE」誌12月号)。今さらいうまでもないが、オモチャマーケットは少子化の影響をモロに受ける。何も手を打たなければ、マーケットは基本的には縮んでいくだろう。


もちろん6ポケット化などで子ども一人あたりの購買価格は増えるとしても、やはり人口減少がマーケットに及ぼす影響は大きい。オモチャメーカーとしては、新たなマーケットを開拓することが喫緊の課題となる。そこでバンダイが目を付けたのが、やはり可処分所得の多いF1層である。


使えるお金をたくさん持っている人を狙え。これはマーケティングの大原則の一つだ。ということでバンダイはF1層をターゲットに『プリモプエル』なるおしゃべり人形を発売した。これ、ただしゃべるだけの人形ではない。学習能力を備えた人形である。


夜、遅く帰ってくると「遅かったね」とか「疲れてるの」とかいってくれる。あるいはちょっと殴ったりすると「なに、イライラしてんの」とか反応する。このプリモプエルバンダイはOLを対象に、淋しいOLの彼氏といった設定で売り出した。


これが実に不思議な売れ方をしたのだ。


とりあえず発売当初は一時的なヒットとなった。物珍しさが受けて、狙い通りのターゲットにある程度は受け入れられたようだ。が、こうした商品はちょっとしたヒットの後、普通売れ行きは落ちていくものだ。ところが「プリモプエル」に限ってはなぜか下げ止まった。そこからは横ばいで推移し、ときどき売れる波がくる。


かといってF1層の間で秘かにプリモプエルブームが来ているという話もない。そこで商品にアンケート用紙を同封し調べてわかったのが、実に意外な事実だった。アンケートを返して来たのは50〜60代の女性、しかも実際の購買者は30代女性が多かったという(このあたりの話は、とある関係者から伺いました)。


つまり娘が、独り暮らしなどで淋しい思いをしているお母さんに、買って送っていたというわけ。そして一部の高齢者の間で「プリモプエル」は爆発的なヒットとなっていた。


なにしろ「プリモプエル」のファンクラブがあるのだ。ファンクラブではバスツアーなども実施している。そのときには、一人で何人(何台とか何個とかいうのは厳禁である、プリモちゃんに対しては)ものマイプリモちゃんを抱えた高齢者が集まってくる。


ファンクラブ会員の間では、平均的な子どもの数が6人ぐらいだという。彼女たちが一人で何人ものプリモちゃんを抱えて、箱根辺りの温泉へバスで繰り出すという。そのとき旅館は、プリモジャックされる。館内すべてがプリモちゃんだらけとなるわけで、これはなかなかの壮観というか、なんというかであろう。


この「プリモプエル」マーケットは、もちろん本体だけにとどまらない。まずお洋服が要る。周辺グッズがいる。4月になると入学式もある。そして機械の入ったお人形だから、たまには壊れることもある。そのときは「入院」して「治療」するのである。
http://primopuel.net/


立派にオタクの世界ではないか。


知らない間に高齢者の一部はオタクとなっていたようだ。内閣府の調査によれば、高齢者の人間関係には希薄化の傾向がみられるという。

この十数年で「親しくつきあっている」人が12%減っているのに対し、「あいさつをする程度」が10%、「付き合いはほとんどしていない」が数ポイント、それぞれ増加している
(「WEDGE」誌、12月号、110ページ)


高齢者といっても、すでに戦後生まれの方たちが増えて来ている。その人たちの中には、面倒くさい思いをして他人と付き合うぐらいなら、自分を受け入れてくれる人たちとだけ付き合っていたい層がふえているのかもしれない。もちろん、そうした傾向は歳が下がるにつれてより強まっていく。


おおげさにいえば、やはり戦後の数十年で、少なくとも日本では人間関係のあり方が大きく変わったということなのだろう。その根底にあるのは、家族制度の変容だと思う。良い悪いをいうつもりはないが、子どもの時に多様な相手とのコミュニケーション経験を積んでいないと、ちょっとしたコミュニケーション不全で傷ついたり挫折したりする人が増えることは簡単に予想できる。


そもそもコミュニケーションとは、相手のことなどわからないし、ましてや自分のことを(自分が思っている通りに)相手がわかってくれるはずがないという前提からスタートするものだ。だからこそ、お互いに何とかわかりあおうと努力し、接点を探るのだし、仮にわかりあえなかったとしても「そうだよねえ、仕方ないよね」とあきらめもつく。それでも、やっぱりわかったらうれしいし、わかってもらえたらハッピーだしということで、チャレンジし続けるものである。


なんだけれど、そんなのめんどくさいよ。自分のことをわかってくれる、あるいは自分の趣味とか好きなことぐらいならわかりあえる相手とだけ、何となく心地よい関係をもてればいいよ、って人がどんどん増えていった時に、社会がどうなるのか。


これはかなり深刻に不安だ。


そして、そんな社会へと動いていこうとしている予兆が、高齢者の間の「プリモプエル」人気として現れていないことを、祈る。





昨日のI/O

In:
WEDGE』12月号
Out:
メルマガ
NPO議事録
某企業・顧客不満足度調査ヒアリングシート


昨日の稽古:

・レッシュ式懸垂、腹筋