歴史から学べるもの


晏子』を読んでいる。


なぜ今さら中国古代を題材にとった歴史小説なのか。このところずっと、ビジネス関係のノウハウ本、理論書ばかりを読んでいて、いい加減飽きてきたのが一つ。また『THE21』の「使えるビジネス書」特集に意外にビジネスのノウハウ本なんて役に立たない、それよりも使えるのはもっと本質的な書物だ、といった記事がありそれに影響されたこともある。


特集の中でオールアバウトの江幡社長が推薦していたのが『晏子」だった。時折しも年末である。一年を振り返るための触媒として、少し古代の話でも読んで、頭をすっきりさせるかという思いもあり手に取ってみてびっくりである。


みごとなぐらいコロッとはまってしまった。もともと古代中国には関心大なのだ。うまくリタイヤできたら、中国に行き、中国語で漢字を勉強したいと思っている。世の中でいちばん美しい文字は、楷書だと信じて疑わない。高校生時代にもっとも影響を受けたのは『老子』であり、浪人時代にもっとも読み込んだのは『論語』でもある。


いまの中国人が好きか嫌いか、あるいは中華人民共和国が良いか悪いかといった話とはまったく別の次元で、古代中国にはとてつもないロマンを感じ続けている。もちろん、古代の中国人は今より何百倍も残酷な民族でもあったこともわかってはいる。が、桃源郷を考えだしたのも同じ中国人である。陶淵明の「桃花源記」は今でも大好きな書物である。


あるいは中学時代に教わった『史記』も、すでにうろ覚えの領域になっているとはいえ、たとえば鼓腹撃壌の話などは未だにはっきりと覚えている。それぐらい中国古代の話はインパクトが強かった。さらには中国には『竹林の七賢人』もいてシンパシーを覚える(って、ほとんど関係ないけれど)。


さて『晏子」である。まだ三分の二までしか読んでいないが、それでもここには人間が描かれていることがよくわかる。それも単なる策謀家などといった薄っぺらな人物ではなく、物事の本質を考えられる人間がきちんと描かれている。人物が生き生きとしている。


加えてビジネスに役立ちそうな言葉もたくさん散りばめられている。人に対する接し方、上の人間との関係の取り方、自分にとってライバルとなる人間への考え方、敵との戦い方などあれこれ。


考えてみれば古代の領土争いとは、ゼロサムゲームである。ということは現代のビジネス環境と基本的に同じだ。ゲームのルールも、そこから導き出される戦い方も、古代と現代は似ているのだろう。だから、学べることがたくさんある。


たとえば人物観だ。

晏弱はこの青年貴族がけっしてあつかいやすい型の配下ではないことを、あらためて知った。が、人当たりの悪い男は、真情が深いところにあり、そこまでこちらの真情がとどくと、かえって永くつきあえる男になるはずだという信念が晏弱にはある。
宮城谷昌光晏子』第二巻、新潮文庫、平成18年、101ページ)


あるいはモノの見方

ある立場にいる人は、その立場でしかものをみない。が、意識のなかで立場をかえてみると、おもいがけないものがみえる。それを憶えておき、いつか役立たせるということである。
(同書、116ページ)


こうした文章が随所に散りばめられている。もとより、これは中国の史書を参考に作者である宮城谷氏が創りだした世界である。本当の晏子がどのような人物であったのか知るには、自分で史書を読み解くしかない。そのガイドに宮城谷『晏子』はなり得るし、もちろん単独で読んでもおもしろい。しかもビジネスの参考にもなる。


「こうすれば儲かる」とか「これで得する」といったノウハウ本に費やしてしまった時間の無駄を痛切に感じる。



昨日のI/O

In:
晏子宮城谷昌光
Out:
藤山直美さんインタビューメモ

昨日の稽古: