なぜ優先順位が必要か


『アイビー・リー 2万5000ドルのアイデア』と呼ばれる逸話がある。


コンサルタントの間では有名な伝説だ。百年近く前のアメリカでのこと、ある企業の社長が一人のコンサルタントに相談した。

「いま、我が社がやるべきことは何か。やれば必ず効果がある。そんなことがあるなら教えてくれないか?」
「あなたの会社の能率を五〇パーセント以上、改善する方法があるんだが」
「本当か?」
「ここに一枚の紙がある。明日、しなければならない仕事をここに六つメモってくれ」
「わかった」
「次に、それぞれの仕事の重要度に応じて番号をつける」
「わかった」
「OK、ポケットにしまってくれ。さて、明日、最初にすべきことは番号1の仕事だ。まず、それを最後までやり遂げたら,次に番号2、それから3、4と取り組んでほしい。時間がなくなるまで続ける。結果的に一つ、二つしかできなかったとしても悔やむことはない。とにかく、その日もっとも重要な仕事ができたんだからね」
「わかった」
「重要なことは、毎日続けることだ。仕事を重要度で評価し、優先順位を決める。手帳にメモしたら、あとはとにかくこなすのだ。同様のことを社員にもさせるのだ。そして、効果を認めたら、妥当な報酬を支払ってほしい」
中島孝志『手帳フル活用術』、知的生き方文庫(三笠書房)、2005年、42ページ)


数週間後、このコンサルタントが受けとった報酬が2万5000ドル。当時のレートでならフォードを10台ほど買える額だったというから、今の日本円に直せば3000万から5000万といったところか。


たった、それだけのことでと思うなかれ。それぐらいにフツーの日常はムダに満ちている。一生懸命仕事をしているつもりでも、成果が上がっていないケースが多い。もちろん、みんな遊んでいるわけじゃない。それなりにがんばって仕事をしているはずだ。ただ、何をがんばっているのか。どうがんばっているのか。そこが問題なのだ。


ここで一つ質問。あなたがやっている仕事は何なのか?
もう一歩、突っ込んでみよう。そもそも仕事とは何か?


一言で表わすなら、仕事とは命をかけて「価値を創造すること」だ。何をたいそうなと思うかもしれない。自分が今やっている仕事は、そんな大げさなことじゃないといわれるかもしれない。しかし、仕事をするということは、何かに時間を使うということである。時間を使うということは、正確にいえば人が生きている時間をそれに費やすということである。あなたが生きている時間、それを命というのではないか。


逆にいえば、命をかけて創造された価値だからこそ、それに対して人は対価を支払うのである。価値が大きければ、喜んでそれなりの対価を払うだろう。これが仕事によって得られる報酬だと思う。だから、自分が仕事を通じてどんな価値を創造しているのかは、一度考えてみた方がいい。


そこでポイントとなるのが「価値」を提供している相手である。提供した「価値」に対価がつくためには、必ず相手が必要だ。自分が仕事を通じて提供している価値は、一体誰にとっての価値なのか。ここを問うてみてほしい。


そう考えれば重要な仕事とは何かが見えてくる。仕事の重要度は『提供する価値の大きさ×価値を提供する相手の数』といった指標で表すことができるはずだ。ごく少数の人が相手ではあるのだけれど、その人たちにとってかけがえのない価値を提供するなら、重要度は高く対価として得られる報酬も大きくなるだろう。あるいは一人あたりに提供する価値は小さくとも、それを多数の人に提供できるのなら、やはり重要度は高く得られる対価も大きい。


ここで注意したいのは、対価とはなにも金銭的な報酬には限らないということ。人が生きていく上で必要なモノを与えられるなら、それはなんでも対価になるのだと思う。


ともかく仕事というのはそういうものである。だから仕事をするなら、仕事を通してより高い価値を創りだしたいなら、重要度の高い仕事=より高い価値を創造する仕事から片付けるべきなのだ。これがアイビー・リーの教えである。


それも前日に考えることに意味がある。時間的余裕をもって考えることで、より冷静に考えることができる。一旦考えて一晩寝かせる。朝もう一度、冴えた頭で見直して「よし。今日はまずこれからだ」と取りかかるのと、朝になって「さて、今日は何をやろうか」とのんびり構えているのとではスタートダッシュの勢いが変わってくる。


また重要なことから片付けたのだと思えば、一日の終わりに得られる達成感も大きい。その達成感は、明日へのやる気につながる。やる気を感じながら、次の日にやるべきことを考えるからポジティブである。こうやってポジティブサイクルをまわしながら、同時に重要と思われること(少々判断を間違っていても構わないではないか)から片付けていけば、大きな価値を創造することができるだろう。ということは得られる対価もそれ相当のものになるというわけだ。


ティーブン・コヴィー式に重要度/緊急度のマトリックスを書いてもいいのだけれど面倒だなあと思う人もいるだろう。ここは一つ、だまされたと思って毎日一日の終わりに、明日やるべき重要な6つのことを書き出す習慣から始めてみてはいかがだろう。そのための絶好のツールが次のサイトにある。自作も含めていろんなタスク管理ツールを使ってみたけれど、今のところこれがいちばんピッタリくる。オススメです。
http://davidseah.com/archives/2006/09/16/the-printable-ceo-vi1-emergent-task-planning/


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