時間距離で考える


スキーリゾート・越後湯沢のターゲットエリアは


といえば、東京から新幹線で一時間半。お客さんは東京から呼んでくるものと、普通は考えてしまう。確かにそれで間違っちゃいない。では逆方向はどうか。新幹線でみれば一応、越後湯沢から東京とは反対方面へ行くという手もないことはない。すると新潟までが約一時間、となると新潟からあと二時間ぐらいで行けるところは・・・、たぶんどこでも近くでスキーはできる。


ということでスキーリゾート越後湯沢の商圏は、基本的に東京周辺ということになっていた。みんな、そう思っていた。ジャパン・ワールドワイド社のニール・ライリー社長がビジネスを始めるまでは。


ニール社長が展開しているビジネスは旅行代理店である。新潟県湯沢町にある。そして同社のターゲットは今のところ、主に東京で働く外国人。彼らに対して湯沢の情報を提供し、外国人ニーズにマッチしたパッケージツアーを企画、販売している(日経MJ新聞2月12日)。


そのパッケージツアーには日曜日チェックイン・土曜日チェックアウトの六泊七日なんてプランがある。こんなプランはたぶん日本人客をターゲットとして考えている限り浮かんでこない。ところが、これが外資系の勤務スタイルを前提として考えれば、極めて合理的なプランとなる。どこの宿泊施設でも、週末は料金が高くなり、逆に日曜の夜が一番安い。普通は月曜日から仕事があるから、日曜日の夜にわざわざ泊まりにくる客は少ない。見事に需給バランスを反映した価格設定となっている。


ということは「普通じゃない」勤務体系をとったり、あるいは休暇を取れるお客さま=外国人にとっては、日曜からが狙い目ということだ。うまいところに目をつけている。


さらにおもしろいのが、その商圏設定だ。確かに日本人相手なら越後湯沢から新潟方面にエリアを広げても、潜在顧客はそれほど多くない。ところが、これが外国人を相手と考えればどうなるか。新潟には空港がある。空港からは飛行機が飛んでいる。上海、ソウル、ウラジオストクハバロフスクなどに、いずれも新潟空港からだいたい二時間ぐらいで飛んでいける。ということは越後湯沢まで四時間ぐらいだ。


これぐらいなら十分商圏としてみこめるのではないか。特に狙い目は上海だろう。上海は今や完全な国際都市と化している。三年ほど前に上海の中心オフィス街で、ちょっとオシャレめなレストランでランチしたときには、誇張じゃなく回りにいる人間の半分ぐらいが外国人(中国の人から見てということですよ)だった。もっとも、そのお店はそうした人が集まるスポットということだったわけだが、それにしてもである。オフィス街を歩いていると欧米系の人を多く見かける。その割合は、個人的な印象に過ぎないが、東京を完全に上回っている。


つまり上海から新潟空港経由越後湯沢へ、という動線はほぼ確実にある。とりあえず今のところ中国には、スキーリゾートはまだないはずだ(もしかしたらあるかもしれないけれど、リゾートとしての完成度は平均レベルで見れば湯沢の方が高いだろう)。中国でストレスフルなビジネスに携わっている欧米系の方々にとっては、越後湯沢は休暇を過ごす土地としてかなり魅力的な選択肢になるに違いない。


ポイントは『時間距離』である。リアルな距離を考えれば、新潟から遠く離れた上海が商圏として浮かんでくることはないだろう。ところが距離を到達時間で考える(=時間距離ですね)と、上海、ソウル、ハバロフスクなどが商圏になってくる。つまり国際空港を起点とすれば、立地/商圏の設定がこれまでとは変わってくる可能性があるということだ。思わぬところに潜在顧客がいる可能性がある。


もちろん、スキーリゾートに限った話ではない。製造業だってそうである。お客様のところまで駆けつけるのに、どれぐらい時間が必要か。顧客サポートの視点で考えたときに、たとえば新潟の企業であれば、上海の企業が顧客だったとしても十分にサポートは可能だ。


逆もまた可なりである。東京は遠く離れているから、ちょっと商圏としてどうかと考えている地方企業にとっても、時間距離で考えれば見え方が変わってくるのではないか。実際、以前兵庫県加西市に本拠地を構えるグラフ株式会社・北川社長にインタビューした時も、同じようなことを言われた。同社のある加西市は、はっきりいってど田舎である。こんなところに本拠地を構えていては、デザイン会社として不利ではないかと尋ねたところ、北川社長は「うちのお客さんは、東京も多いですよ。東京までは二時間ですから」とあっさりおっしゃった。


なるほど、伊丹まで車で一時間、伊丹から羽田まで一時間足らずだ。これが東京へ行くなら新幹線でいった刷り込みがあると、加西から山陽新幹線のたぶん姫路ぐらいまで出て、そこから新幹線に乗って東京へというのは、ほとんど移動だけで一日仕事になってしまう。だから、東京のお客さんを相手にするという発想など出てくるはずがない。しかし、飛行機を使えば渋谷までドアツードアでも三時間かからない。十分に営業テリトリーに入ってくる。


これが時間距離のマジックである。


昨日のI/O

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