なぜ希望枠廃止は来年なのか


巨人、大鵬、卵焼き。


40年以上前の子どもにとっては、この三つが大好物であった。おいしい卵焼き(卵の値段が相対的に高かった時代で、卵焼きは子どもにとってはごちそうの一つだった)。「憎たらしいほど」という形容詞が付いた次の横綱北の海とは違って、どこか人好きのするところがあった大鵬


そして球界の紳士(信じられないことかもしれないけれど、昔は本当にそう呼ばれていたし、みんなが認めてもいた)巨人。もっとも後で知ったことによれば、古くは別所の引抜きに始まり、長嶋入団の疑惑や金田を強引にトレードしたことなど、今から思えばその体質は以前からあったのかもしれないが、とりあえず子どもにとっては巨人が憧れのチームであったことは間違いない。


いまのたぶん45歳以上の男性なら、その多くが少なくとも一度は見ているはずのスポ根野球マンガもあくまで『巨人の星』であり、それが『阪神の星』であることは誰も想像できないし、そんなことは誰も考えつきもしない時代だった。それぐらい読売巨人軍ジャイアンツの威光は輝けるものだったのだ。


然る後に、その巨人がおかしなことをする。


江川事件である。「空白の一日」だとかいって江川と契約し、それが認められないとその年のドラフト会議をボイコット。挙句の果てには、コミッショナー裁定という超法規的措置により、江川の指名権を獲得していた阪神に対して巨人・小林とのトレードが強制的に行われた。この一件で巨人が評判を落としたことはいうまでもない。


だけれどもまだカリスマ長嶋の威光は健在だった。王さんもいた。だからそれでも「やっぱり野球は巨人やで」というファンが、関西にもたくさんいたのだ。


ところが時が経てば経つほど、巨人のやってることがおかしい、と誰もがわかるようになる。あまりにもあからさまに金にあかして各チームの主力選手をあさる。プロ野球改革の機運には真っ向から反対する。


その挙げ句が、今回の希望枠廃止に対する反対というわけだ。なぜ、来年なら廃止を認めて、今年の廃止はのめないのか。マスコミは書かないけれど、そんなの少し頭を働かせれば誰にでもわかる。要するに今年の希望枠でどうしても獲りたい選手がいて、その選手にすでにかなりな投資をしているからだろう。ここで今年の希望枠がなくなり、その選手を獲れなくなれば投資回収のメドが立たなくなる。ムダな投資はビジネスでは御法度である。


振り返れば「球界の紳士たれ」の時代から巨人軍の論理は、実は一貫しているのではないだろうか。それは巨人株式会社といってもよいぐらいの経済合理性の追求である。あるいは高付加価値を提供することによる高利益追求モデルといってもいい。


要するに実力がありかつ人気のある選手を揃えて、球場にはたくさんの観客を集め、同時に高い視聴率(しかもゴールデンタイムの)を根拠に、高額の広告枠収入を得る。このビジネスモデルがもっとも機能したのが、いわゆるV9時代ということになる。


それ以降もジャイアンツは、この高付加価値・高収益モデルを徹底して追求しようとした。そうなるとネックは選手の確保である。おそらく最初の危機感を抱いたのが、長嶋引退のときじゃないだろうか。そして王さんの引退で、その危機感は決定的なものとなった。よい選手を安定的に確保できなければ、これまでのジャイアンツビジネスモデルは崩壊するのである。


そこでまず目の敵となるのがドラフトだ。純粋なくじ引きなどに頼っていたのでは「これは」と目を付けた選手を思うように獲得することはできない。そんな運頼りではビジネスは成立しないのだ。したがってこのドラフト制度をなんとかしなければとあがく中で編み出されたのが逆指名制度なのだろう。


しかしいくら有望な新人を集めても、彼らが思った通りに成長してくれるとは限らない。選手の商品化はそれぐらいに難しい。となると目を付けるのは、すでに商品として安定した品質を持っている選手を分捕ること。それがFAだったのだろう。


FAは金の問題である。少々投資がかさんだとしても、それ以上に回収できれば問題はない。これがビジネスのロジックである(その意味では、ここ何年かの巨人の投資は失敗に終わっているようだけれど)。元々巨人指向があったスター選手(昭和50年ぐらいまでに生まれた選手には往年の巨人神話がまだ頭にこびりついているだろう)に札束を積めば、たいていはコロンとなる。


しかもFAには二重の意味がある。つまり獲得するのが一流有名選手であればあるほど、彼にはファンが付いている。そのファンを巨人ファンとして取り込むことも可能性としては考えられ、それはそのファンがもともと応援していた球団のファンを減らすこと(競合を不利な状況に追いやる)にもつながる。


巨人神話などで目が曇っていると見えないかもしれないが、巨人軍のビジネスモデルはもう何十年も前から終始一貫しているのだ。だから希望枠廃止は、何としても来年にまで伸ばさなければならない。そうじゃないと投資が丸々ムダになる。仮にどうしても今年希望枠を廃止するなら、これまでの投資に見合っただけのリターンを何かで得なければならない。それがFAの短縮化という巨人が出している条件ということになるのだろう。


なるほどね。


昨日のI/O

In:
『ウルトラダラー/手嶋龍一』
『対訳君』開発者インタビュー
Out:
松下電器PDPモジュール開発チームリーダー・インタビューメモ

昨日の稽古

・レッシュ式懸垂