赤ひげ先生はどこへ?


年収差約1500万円


診療所の収支差額と勤務医の平均給与を月額で比べると、だいたい120万ぐらいもの差がある。多いのは診療所の開業医である。その結果(と断定はできないが)診療所がどんどん増えている。病院(ベッド数が20床以上の医療機関が定義らしい)が10年前に比べて500カ所以上減っているのに対して、診療所(ベッド数19床以下)は同じ10年で一万以上増えた(日経産業新聞4月6日)。


勤務医がどれだけの激務を強いられているかは、ここのところマスコミが積極的に取り上げている。たとえば週に60時間労働は当たり前で、しかも宿直が二回あるとか、休みの日でもケータイに連絡がはいれば、すぐに飛んでいかなければならないとか。つい最近では小児科医の自殺の原因が過労であるとして東京地裁で労災認定されることもあった。


小児科医、産婦人科医に外科医などは救急対応が求められる。それだけ人命に直結する医療を行う機会が高いわけで、プレッシャーはきついだろう。一方で患者の側からすれば、そうしたお医者さんのところに行くときには本当にすがるような気持ちになっているはずだ。自分がそんな気持ちに追い込まれているときは、対応する側がどれだけ大変な思いをしているか、までは気が回らないことが多いだろう。


そのくせ、万が一にも医療過誤があったり、過誤とはいえないケースであってもいまは簡単に訴訟沙汰になったりする。ばかばかしくて勤務医なんかやってられるか、とまでは思わないだろうが、勤務医を続けることを考え直すお医者さんがふえるのも仕方がないとは思う。


という背景がおそらくはあって、病院が減り開業医が増えているのだろう。しかも開業医は、緊急性を要しない診療科に偏る傾向があるんじゃないだろうか。お医者さんからみて、労多くしてリスクが高いのが産婦人科や小児科といったところだろうか。逆に歯科や眼科、あるいは内科などは生命に直結するリスクが少ないだけに気分的には楽だろう。


そりゃお医者さんだって人間なんだから、わざわざリスクが多くてきついことをやるよりは、楽(というのは言い過ぎだろうけれど)な方を選んだ方が賢いではないか。


ではビジネスモデルとして開業医をみると、そのメリットデメリットはどうなるだろうか。とりあえず何を専門とするかによって、メリットデメリットは大きく左右されるだろう。そういう意味でビジネスとして考えるなら、リスクつまり医療過誤が生命に直結する可能性の低い科目を選ぶべきだろう。無難なのは歯科医、眼科医に内科医、皮膚科医ぐらいだろうか。が、歯科医は大学を受ける時点で選択肢が決まってしまっている。となると眼科、内科、皮膚科あたりがとりあえずの選択肢となる。


次に考えるべきは、イニシャルコストとマーケットサイズだ。イニシャルコストでみれば、大きいのがハードコストだろう。まず、どこで開業するかによって土地代が大きく左右される。しかも立地はマーケットとも絡む問題である。土地代が安いからというだけで立地を決めてしまうと、患者さんが集まらない危険性がある。ここは重要なチェックポイントである。


さらには設備コストもかかる。ただ、これについてはたとえば内科、眼科などで必要な設備コストがどれだけになるのかをまったく知らないので、とりあえずそれほど大きな差はないものと仮定しておく。同様にランニングコストもそれほど差はないものと一応しておく。


となると次に考えるべきはマーケティングの鉄則「STP」である。


まずどのセグメントを狙うのか。これはたとえば内科だとしても、いろいろあるわけで、ニッチなセグメントを狙えば、当然、それだけ患者さんの数も限られてくる。とりあえず「内科」としておけば、おそらくは高齢者はありとあらゆる相談を、中高年は生活習慣病がメインの対象となり、冬場はカゼやインフルエンザの対応に追われることになる。


高齢者が増え続けることを前提とすれば、内科は悪くない選択肢である。だが、どうせなら「とりあえず」内科よりは、たとえば高齢者内科とか生活習慣病内科といった打ち出しをした方が差別化を図れそうだ(こんな用語があるとは聞いたことがないし、そういう区分をしてはたぶんいけないのだろうけれど)。


そしてターゲットである。仮に高齢者をメインとする場合も、いろんな選択肢がある。ここが立地とモロにかぶってくるわけだが、たとえば高級住宅地近辺(しかも20年ぐらい前に開発されて、いまは住人の大半がお年寄りみたいなところ)などが、競合がいなければ絶好だろう。もちろんそういうお金持ちなお年寄りはたいていの場合、すでにかかりつけのお医者さんを持っているはずなので、そこからのスイッチングをいかに図るかが課題となるが。それでもお医者さんは近く、というのは患者サイドからすれば何よりの魅力となる。


そしてポジショニングである。比較的裕福なお年寄りを相手に、高齢者内科をやるなら、巡回診察も厭わないぐらいのハウスドクターといったところだろうか。もちろん医院全体のコンセプトは「サロン」である。いつでも気軽に来てもらっていい。来ていただいたらお茶ぐらいは出すし、そこで時間つぶしをしてもらってもいい。もちろんきちんと診察を受けたい患者さんには、予約診療を徹底する。


というようなことを、これからの開業医さんが考えるのかどうか。しかし勤務医が減り、しかも開業医さんが特定の科に偏り、では患者にとっては望ましい状態とは決していえない。だからといって「赤ひげ先生」出よ、といくら叫んでも叫ぶだけでは何も変わらない。。医療制度改革は、まずお医者さんの置かれている現状を広く知らせ、皆に問題意識を持たせることからやらなければならないと思う。


昨日のI/O

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昨日の稽古:西部生涯スポーツセンター

・基本稽古
・移動稽古(回転すると、いかに自分の軸がぶれているかがよくわかる)
・型稽古(太極一、太極三、裏太極一、足技太極一、裏足技太極一)
・ミット稽古
・ナイフを相手にした護身
・組み手稽古