新車を買うのは誰?


前年同月比13%減


一年で最も新車が売れる(らしい)3月なのに、今年はさっぱりダメだった(日本経済新聞4月3日)。そもそも3月に車が売れるのは、入社・入学用におそらくはお祝いの意味もこめてということだったのだろう。そこで日経の記事では「若者人口が急減(だから)新車販売打撃」といった見出しを付けている。


たしかに記事によれば

新車を初めて購入する人が多い二十〜二十四歳の人口は直近のピークだった1994年の980万人から06年は731万人と四分の三弱に減った。

車を買ってくれる人が減っているのだから、車が売れない。至極もっともな説明のように思える。流して読んでいると「なるほどなあ」とつい納得してしまいそうだ。


しかし、である。記事には20ー24歳人口の推移グラフが添えられている。それをざっと見た限りでは、去年と比べて今年が10%も減っているようには見えない。だから、見出しのように若者の数が減って新車が売れなくなった、という説明にはちょっと「?」が付く。


ここでもう一つ、面白いデータがある。そのデータによれば、日本では無職世帯が最大勢力になりつつあるという。総務省の「家計調査」では、無職世帯の割合がどんどん増えていて、2007年1月時点では全体の27%を超えたそうだ。今のところコンマ2%多い民間ホワイトカラー世帯をも年内には抜くらしい(日経MJ新聞4月11日)。


無職世帯はその大部分が年金生活者であり高齢者だ。ということは、ムダな出費は極力抑えようとするだろう。もちろん彼らは退職金も(今後の退職者に比べれば恐らくは)そこそこたくさんもらい、年金もまだたっぷりともらえている世代である。そんな彼らでも将来に対する不安がないとはいえない。なぜなら医療が急速に進歩しているからだ。


医療が進歩して不安になるというのもおかしな話だが、寿命と財産のバランスを考えなければならないということである。早い話が思った以上に長生きできる可能性が出てきたと、その場合に経済的に大丈夫かといった心配をしなければならないのである。


当然、節約に走る。それが自動車販売へ影響を与えているとみるのはうがち過ぎだろうか。実際、総務省の調査によれば高齢者になると減る消費項目の中に「自動車等関係費」がある。関係費だから自動車本体だけを指すわけではないだろうが、高齢者で自動車を新たに買う人が減っていることは確かだろう。


退職を記念しお疲れさまの意味もこめて退職金で「乗りたかったクルマ」を買うといった贅沢はもはや許されない状況になっているんじゃないだろうか。すなわち、新車販売が落ち込んでいる理由は若年層だけにあるのではなく、高齢者の買い控えも影響してはいないか。


さらに、それだけでもないように思う。車を買い替えるタイミングでいえば、家族が増えること、すなわち子どもが生まれることも大きなキッカケになる。さらには子どもの成長に伴って、少しずつ大きな車に乗り換えるといったパターンが以前は確かにあった。


ところが、このパターンも崩れてきているのではないか。その証となるのが新車の平均使用期間だろう。これがどんどん長期化していて、06年にはついに11年を超えたようだ。11年間も乗り続けるということは、ありていにいえば「ボロボロになる」まで乗り潰すということだろう。これがクルマに対する感覚の変化を象徴的に表わしていないだろうか。


つまり、以前のクルマはライフステージの変化に伴ってアップグレードされるべきモノであった。その象徴だったのが「いつかはクラウン」である(っていっても、今どきの人はこのキャッチコピーを知らないだろうな)。つまりトヨタ的には新婚さんはパブリカで始まり、子どもが生まれてカローラに乗り、部長さんぐらいになったらコロナ(マーク2を含む)にアップグレードされ、最終ゴールはクラウンに乗ることが理想的なステップアップカーライフというわけだ。


こうしたシンボリックな意味でのクルマ購入が盛んだった時期は確かにある。しかし、それはクルマがある種の象徴的な意味を保てる時代だからこそ機能するステップである。ひるがえって今のクルマに、そんなシンボル性があるかどうか。


もちろん一部のマニアはいる。しかし、現実的にはワンボックスカー、ワゴン車の隆盛がクルマからそうしたステータスシンボル性を根こそぎ取り除いたように思えて仕方がない。要するに「クルマなんて、単なる移動手段なんだよ。だから移動を安全に、快適に、家族みんなでできれば、それでいい」という割り切った考え方が浸透しきったのではないか。


ここで起こっているのはクルマのコモディティ化である。


だから中高年向けのこだわりのクルマがさっぱり売れない。売れるのは実用的なワンボックスか、軽自動車である。そしてそうした車を徹底的に乗り潰す。ユーザーのクルマに対する見方が根底から変わってきていることをメーカーは捉えきれていないのではないだろうか。


日経は

人生の様々なステージにある人が思わず買い替えたくなるような車をどう作るか
日本経済新聞4月3日)

と書いているけれど、そうした考え方こそがもはや時代遅れなのだろう。ただ新聞社はともかく、自動車メーカーならそんなことは先刻ご承知だと思うのだけれど違うのだろうか。




昨日のI/O

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伊東弘一教授インタビューメモ
安土町教育委員会インタビューメモ

昨日の稽古:

・レッシュ式腹筋、スクワット、ジョギング
・基本稽古