ポイント地獄


年間発行額4520億円


企業が気前よく発行してくれるポイントの総額である。ただし、この数字を読むときには注意が必要だ。実は企業が発行するポイントについては確かな統計資料がない。だから、この数字は野村総合研究所が予測した最低ラインの数字であり、感覚的にはこの倍ぐらいが発行されているらしい(「WEDGE」6月号)。


さて、みなさんはサイフの中に何枚のポイントカードが入っているだろうか。改めてカードの枚数を確かめてみると、意外に少ないことに気づかれるのではないだろうか。さらに以前のように紙製のカードにハンコを押してもらうタイプのポイントカードは、ほとんどなくなってはいないだろうか。


ポイントカードはいま、急速にIT化が進んでいる。磁気カードやICカード、ときにはケータイがカード代わりに使われることもある。そして一枚のカードをいろんなお店で使えるようにもなってきている。たとえば飛行機のマイレージカードがいい例だ。もともと飛行機に乗る時だけポイントが貯まるはずだったのに、今では系列ホテルに泊まるときはもちろん、レンタカーにガソリンスタンド、さらには普通のお店で買い物をしてもポイントが付く。


実に結構なことである。ガソリンを入れたり、普通に買い物することは、ポイントが付こうが付かなかろうが必要に迫られてする行為である。そんな買い物をしているうちに、いつの間にか飛行機に一回タダで乗れるようになってしまう。


さらにポイントが過激なのは家電量販店だろう。パソコンを買えば何千ポイントとかが付いてくる。これって結局は値引きのことなのだが、直接値引きをするのではなく、ポイント化してしまうことが店にとっては若干のメリットとなる仕組みが隠されている。


要は昔大量に流通していたテレフォンカードと同じ理屈だ。テレフォンカードは、それをお客様が買ってくれた時点でNTTの売上となる。これが電話料金との決定的な違いである。電話料金は、通話したことに対して課金される。だからユーザーサイドからすれば、実際に電話を使った分だけお金を支払うことになる。何の問題もない。


しかしテレフォンカードは違う。たいていの場合は、そのカード分の通話をして使い切るわけだが、中にはまだカードに10円とか20円ぐらい残っているのに「そんなの要らないや」と放棄する人もいる。カードを買ったのにどこかへやってしまい、残額があるのに使えなくなってしまうケースもある。さらにうまいのはオリジナルデザインなどカードに付加価値をつけてしまい「使うのもったいないなあ」と思わせる手もNTTさんは使っていた。巧妙だ。この場合は、カードが売れた分だけNTTは丸儲けとなる。


家電量販店の大量ポイント投与作戦も、基本的には同じことを狙っている。つまり大量にポイントを貯めて、次の機会にはそのポイントを使ってどかんと買い物をしようとお客さんが考えてくれたらしめたものだ。もちろん大半のお客さんがそうやってポイントを使うはずだが、中にはポイントを貯めていることを忘れてしまうお客さんもいる。あるいは転勤、引っ越しなどでポイントを貯めているチェーン店に行けなくなってしまうお客さんもいるだろう。いくら景気よくポイントをお客さんに差し上げたって、それが使われなければお店の懐はちっとも痛まない。痛まないどころかほぼ定価で販売できるのだから、それこそごっつあんものの商売である。


ところが、である。


カードのIC化が、カードシステムの妙味を殺してしまった。さらに貯めたポイントをいろんなお店で使えるようにしたために、発行企業は自分で自分の首を絞めることになった。その典型例がやはり飛行機だ。


そもそもこうしたポイント制度はエアラインやホテルにとって、もっともメリットのある販促&顧客囲い込み制度だった。つまり飛行機は空席を抱えて飛ばそうが、満席で飛ばそうが飛行コストに変わりはない。ならば空席のままで飛ばすぐらいなら、上得意客にサービスした方が覚えめでたいではないか、と考えてFFPが始まった。ホテルも基本的には同じ考え方だ。


だから空席、空室を出すのなら、そこは上客にサービスしようというのなら話は通る。ところが今やガソリンを入れても、普通に買い物をしてもポイントが貯まってしまう時代である。しかも貯めたポイントで飛行機に乗せてくださいと客が行ってきた場合、イヤだとは言えない。そこで空席をポイント客に提供するのではなく、ポイント客に席を提供するがために有償の座席が減らさざるを得ないという奇妙な逆転現象が起こっている。もちろん航空会社にとっては収益減となる。


消費者サイドにとっては、こんなにありがたい話はない。ポイントカードを上手に貯めたり使ったりするためのマニュアル本まで出ているらしいが、そんなものに頼らなくとも、次の二つの原則を守ればそれで済む。


原則一.可能な限りポイントカードの枚数を減らし一元化する
原則二.家電量販店などではポイントを貯めずに値引きしてもらう


これでオッケーだ。が、たとえば売上高4800億ぐらいのビックカメラ、年間発行しているポイント高は約100億円にも上る。売上高ポイント比率は2%にもなる。お客さんがポイントを丸々使いだしたら、売上高利益率がたちまち2%ダウンということ。これって相当な打撃になるはずだけれど、経営的に大丈夫なんでしょうか。



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