名選手が名監督になった


名選手、必ずしも名監督とならず


よくいわれることである。その理由は、実はとても簡単なことだ。現役時代の名選手ぶりが飛び抜けていればいるほど、彼には普通の選手のことがわからない。仮に極めつけの天賦の才を持って生まれた人なら、そうした才能を持っていることが当たり前と考えてしまう。だから、たいていの人がそんな才能には恵まれていないことにはなかなか気が至らない。


あるいは過酷な猛練習を自分に課すことで名選手となった場合も同じである。人も自分と同じような努力をして当然だと考える。むしろ、こちらの方が問題ありで、自分と同じだけの猛練習をできない奴をすぐに失格者と見做してしまうことが多々ある。


だが、ちょっと待てである。努力の末に名選手となった人でも、自分が激烈なまでの苦役を自分に課すようになったのには、何かのキッカケがあったはずだ。そして、それがキッカケとして作用するには、タイミングの問題が大きく影響していたはずである。まず「やろう」とか「やらなくちゃ」といった意識が自分の中に形成されており、ちょうどそのタイミングで自分の意欲を後押ししてくれるようなキッカケがあったからこそ猛練習へと自分を持っていくことができたんじゃないのか。


そうした環境的な要因を考えずに「自分はこうやって練習してきたんだ。(同じ人間なん)だからやろうと思えば、誰にでもできるはずだ」と押し付けるのは横暴以外の何ものでもない。一昔前に近鉄バッファローズの監督をされていた鈴木啓示さんなんかが、案外このタイプだったんじゃないだろうか。


そう考えてくると、とても不思議な監督が一人いる。
中日ドラゴンズ落合監督である。


今の時点で落合氏を名監督だと言い切ることには異論もでるかもしれない。しかし監督就任後の成績は優勝、2位、優勝、そして今年も現時点で2位となかなかである。地元財界との付き合いが悪いだとか、ファンをないがしろにしているだとか、あるいは選手との折り合いもうまくいっていないのではないかなどと噂が絶えないが、そんなのはやっかみだとも思えないこともない。


監督の仕事は、あくまでもチームを優勝へと導くことである。しかも可能な限り長期に渡って。だからこそあまりに強すぎて野球が面白くないと酷評された川上監督だって、今から評価するなら名監督というしかないではないか。


財界との付き合いやファンサービスなどは、まずきちんと勝てるチームを作りあげ、その後でまだ余裕があればやればいいことである。ろくに戦えもしないチーム状態のときに、財界と付き合ったりしていてはそれこそ監督として本末転倒だろう。


少し話がそれたが、落合監督のやっていることは基本的に正しいと思う。そこで振り出しに戻るわけだが、彼ほどの名選手がなぜ、すんなりと名監督(一応、そういうことにさせてもらうとして)になれたのだろうか。答は「オレ流」にあるように思う。


つまり落合監督自身が、選手時代には徹底して「オレ流」を貫いた人だ。オレ流とは、どういうことか。自分でとことん考えろということである。そして、自分で考えて行動した結果については、100%自分で責任を持てということである。つまり、原則的に落合氏は徹底したノンコーチングをやっているということではないのだろうか。


そして、その背景にあるのは、よく言われる「ライオンはわが子を谷底へ蹴落として」的ヒューマンストーリーではないと思う。そんな甘いものじゃない。勝つためにオレ流を貫いているとすれば、ダメな奴には冷淡ですらない態度を取るのではないか。勝つために役に立たない選手は、そもそも最初から存在すらしていなかったかのように接するといった案配で。


だからといって教えを乞うてくる若手を無視するような人物でもない。ただし、ここもおそらくは「自分を頼ってくる奴は、やはりかわいい。だから何とかしてやらねば」といったエモーショナルな理由があるわけでもないと思う。教えを乞うということは、少なくとも自分に何らかの問題があることを理解している証である。自分の欠点に自覚的である人間は、そうでない人間に比べて大いに伸びシロがある。それならば教えて伸ばせば、それだけ勝ちにつながる可能性が高くなる。


と、そこまで冷静に計算しているのかどうか。ここまで書いてきたことは、あくまで推測の域を出ない。彼が奥さんや子どもに接する態度を見ていると、案外情にもろい人なのかもしれないなとも思わないでもない。がしかし、やはりテレビカメラが時折捉えるベンチの落合監督の表情や空気からは、少なくとも試合中は勝つことだけに専念しているプロの姿しか見えてこない。


その冷徹さゆえに落合氏は監督になってからはもちろん、現役時代も暴行騒ぎを起こした何てことは一度も聞いたことがないような気がするんだけれど、違ったかしら。



昨日のI/O

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