サイバーエージェントの会社案内
一冊あたり1000円
サイバーエージェントが09年度の入社希望学生に配布する会社案内の単価である。7000部を作ってこの単価ということは、総額で700万円ぐらいをかけていることになる。今どきすごい、と思うがサイバーエージェントぐらいの企業ともなればそれほどびっくりするような金額でもない。
金額よりも驚くのは、その中身だ。なんとこれが社員の写真集になっているという。社員を売りにしている社風を伝えるために、選ばれた社員の写真に夢や思いを綴った短いコメントを添えているだけ。それだけの内容でA4サイズ20ページの冊子は構成されている。なんともぜいたくな作りだ。
ごくノーマルな会社案内に見られるような会社説明や採用情報は一切なし。正真正銘写真集のような構成になっているらしい。その中身とはいえばたとえば
バランスボールをイスにして机上でパソコンに向かう女性社員や、鏡で反転すると読める企業理念を印字したトイレで手を洗う男性社員などのカラー写真。「守りに入ると、老けそうだよね。攻め続けないと」といった社員の言葉を添えた(日経産業新聞2007年1月10日23面)。
といった案配のようだ。
これだけで自社の中身を学生に伝えることができると確信してのことだろうから、これはやはりすごいと思う。逆にいえば、その写真集会社案内で表現されている感性にビッと反応する学生こそが、サイバーエージェントが求めている人材だということだ。この思いきり方はベンチャー(という言葉は、同社にはすでにあたらないぐらいのステージに達していると思うけれど)ならではのものだろう。
ただ、一つだけ気になることがある。
同社の人事本部では
「今の学生はイメージを大切にしている。長文は読まれない」
と判断しているそうだ。引っ掛かるのは、ここ。イメージを大切にするのは良いとしても、「長文は読まれない」で済ませてしまって良いのだろうかということ。余計なお世話かもしれないけれど、サイバー社が求めている人材もまた長文を読まない(読めない? 読みたくない?)学生であって大丈夫なのだろうか。
確かにネットコミュニケーションでは、だらだらした長文は基本的に好まれない。このブログなども無差別にネットユーザー百人を選んで評価してもらえば、好き嫌い判断では「長いから嫌い」という人の方が圧倒的に多くなることだろう。もとより一律に長文がダメだというわけではないが、昨年のエントリー(→ http://d.hatena.ne.jp/atutake/20071129/1196286902)で書いたように、いまはひと息200字の時代なのだ。長ったらしい文章をくどくど書いていないで、サラッとしかもビシッと言いたいことがあるなら一行でまとめてよね、といったニーズが支配的だったとしても決して驚きはしない。さらに突っ込むなら、そうした短文コミュニケーションで伝わりきらないものを理解するために「空気を読め」といわれたりするのだろう。
しかしである。
ビジネスでも、やはり長文は不要なのだろうか。ことビジネスを空気を読みながら進めたりすると、とんでもないリスクを抱えることになりはしないだろうか。そもそも文化の異なる(社風や企業文化ということですね)企業間で、空気を読み合いながらビジネスを進めることなどが可能なのだろうか。
もしかしたら不可能ではないのかもしれない。たぶんバブル崩壊前までの、ケイレツをメインとした日本企業の取引形態であれば、むしろ空気を読んでビジネスを行なうことこそが最重要ポイントだったかもしれない。しかし、いまは国内を主要マーケットとする企業でも、グローバルなスタンスが求められる時代である。外国企業との間で「じゃ、ここは一つお互いにきちんと空気を読んでやりましょう」などという話が通じるわけがない。
お互いの利害が絡みあっているビジネスではロジックとロジックをきちっと噛み合わせていかないとそう簡単には話を進えていくことはできないはずだ。そんなとき「ぼく、長文はちょっとダメなんですよね。フィーリングでいきましょうよ」という社員で果たして大丈夫なのだろうかと、余計な心配をしてしまうのである。
それにしてもA4・20ページで700万とは美味しい仕事ではないか。費用は印刷代、カメラマン、デザイナーにコピーライターの人件費らしいが、だとすると(間に代理店が入ってごそっと抜いていないとすれば)制作費がいくらになることか。
仮に(写真集に求められる印刷クォリティを考えれば、まずあり得ない話だけれど)ネットの印刷通販に発注すれば7000部・A4・20ページで32万弱。ということはいくらスーパーな印刷会社に頼んだとしても、印刷コストは150万ぐらいだろう。とすれば制作費実に500万円!である。
昨日のI/O
In:
Out:
メルマガ
InsightNow寄稿原稿
メルマガ最新号よりのマーケティングヒント
「トレーサビリティに注目」
→ http://blog.mag2.com/m/log/0000190025/
よろしければ、こちらも。
□InsightNow最新エントリー
「Wiiは何が違うのか」
→ http://www.insightnow.jp/article/884