大学の恐るべき現状


イエローゾーン98、うちレッドゾーン入りが15


私立大学の現状である。日本には私立の大学・短大があわせて665法人ある。そのうち経営困難状態(=イエローゾーン)にあるのが98、いつ潰れてもおかしくない状態(=レッドゾーン)に陥っているところがそのうちの15と判定されたようだ(日本経済新聞2008年1月14日朝刊19面)。

「経営困難状態」と判定されたのは、資金収支計算書から作成した「教育研究活動のキャッシュ・フロー」が「二年連続赤字」に該当する法人と、これには該当しなくとも「外部負債が運用資産を超過する額」を十年で返済できない法人である
(前掲紙)


少子化で大学がえらいことになっているとは、以前からあちらこちらでささやかれていたこと。実際、すでに2003年から大学の破綻が現実化している。たとえば2003年には立志館大学が募集停止、2004年東北文化学園大学民事再生法を申請、2005年に萩国際大学が破綻、そして2006年には東和大学が学生受け入れ停止を発表した(『’08危ない大学 消える大学』島野清志・エール出版社より)。


去年の夏ぐらいから大学や専門学校の生徒募集ツール制作に関わる機会が増えて、少し関心を持っているとこうした情報にぶち当たった。たとえば関西学院大学といえば関西では上位四校に位置づけられる名門校である。しかし、その関学でさえも生徒募集は決して楽勝とはいかないらしい。


ましてや、それ以下の(つまりほとんどの私立大学)などは推して知るべしといったところ。学校案内制作の下調べとしていくつかの大学の概要を調べてみると、定員割れしているところが結構ある。しかも定員割れを公表しているところは、まだましなほうなのだ。


大学を運営する事業法人のサイトに行けば、たいていは事業報告書がある。そこには入学定員と実際の学生数、定員に対する充足率などのデータが記されている。ところがやばい組の短大法人などでは、そもそも入学者数の記載すらないところが半分ぐらいあるらしい(前掲紙)。


ちなみにこの事業報告書を数校分見てみたところ、さらに深刻な問題に気付いた。大学・短大を運営している学校法人は高校も併設しているところがあるが、高校の定員充足率は大学に輪をかけてひどい。充足率は半分以下、ひどい場合には30%を切っていたりする。


なぜ高校の方が惨憺たる状況になっているかはいうまでもなく、子どもの数がどんどん減っている一方で公立高校が統廃合を進めているとはいえ学校が余っているからだ。要するに需要と供給のバランスが崩れている。だからすでに高校は選り好みさえしなければ全入モードに入っているはず。いずれ同じことが大学でも起こるはずで、今の高校生が大学進学を迎える頃(現時点の高校一年生をベースに考えてもわずか2年先である)には、大学の定員割れはさらにひどい状況になっている可能性が高い。


定員割れしているということは、どういう結果につながるか。希望すれば誰でもその大学に入学できるということになる。この場合の誰でもというのは、高校時代にまったく勉強をしなかった子どもたちでもという意味だ。高校で勉強していない子どもが、本来の大学レベルの教育についていけるわけもない。そこで大学の先生は非常に難しい状況に置かれることになる。


一昨年、大学でゲストスピーカーを務めたことがある。ある私立大学で教えている知人から頼まれて『インタビューという仕事』について一時間あまり話した。このとき集まっていた学生さんがだいたい160人ぐらい。そのうちすごく一生懸命に聴いてくれていた学生さんが30人ほど、最初から最後まで寝続けていた学生さんも同じく30人程度(この大教室で熟睡に入る学生を目にするのはかなり新鮮な体験でした)、残りの100人はまあ聞いているのかいないのか、といった状態だった(→ http://d.hatena.ne.jp/atutake/20060620)。


途中でちょっとした問題や質問を出してみたりもしたが、反応はゼロである。よほどこちらの話がつまらなかったのかもしれないが、常勤講師をしている知人によれば、学生の反応はまだましな方だったのではないかとのこと。彼も講義にはとても工夫しており、ビジュアルな方が理解しやすい分野に関してはビデオなども使っていると話していた。


この大学は、代々木ゼミの偏差値ランクでいえば「中堅私大上位」校である。それでも講義に臨む学生の態度は、決して全員が真摯とはいえないのが現状なのかもしれない。もちろん学部学科によっては、あるいは大教室での講義ではなく少人数制のゼミであれば、状況はまったく異なるのだと思う。実際、昨年暮れに取材したとある大学の学生さんたちはゼミはすごく集中すると話していた。


となると大学はどこで差別化を打ち出すのか。結局は設備と授業の懇切丁寧さと最終的な就職率しかないというのが現時点で思いつくこと。他にどんな要素があり得るのだろう。もし、大学からマーケティングのコンサルを依頼されたら、どう考えるべきか。極めて難しいテーマだと思う。



昨日のI/O

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古武術で毎日がラクラク!』甲野善紀・萩野アンナ
Out:
キャセイ関西ホームページリニューアル企画
K女子短期大学情報誌企画アウトライン


メルマガ最新号よりのマーケティングヒント

「誰から対価を得るのか」
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□InsightNow最新エントリー
Wiiは何が違うのか」
http://www.insightnow.jp/article/884

昨日の稽古:

カーツジョグ(久しぶりにやると、ほとんどまともに走れない)