無料通話モデル


43分の通話と217件のメールが無料


一日あたりにならせば通話が1分30秒、メールが7件まで無料で使える。こんなケータイサービスを始めた会社がある。イギリス・ブリック社である。そのCEO・アラピエティラ氏は、ノキアの元社長というキャリアを投げうって新しいビジネスに取り組んだ。


ユーザーに対しては無料で価値を提供することによって、その数を増やす。一方では集まったユーザー数への確実なリーチによる広告効果を訴求ポイントとして、広告メディアとしての価値をスポンサーにアピールする。


ビジネスモデル自体は、Googleを頂点としmixiなどのSNSなどでもおなじみのもの。ネット時代の価値/対価システムを活用したものだ。とはいえアラピエティラ氏は

世界を変える新しいビジネスモデルをつくりたい(日経産業新聞2008年2月1日付4面)

という。そのために練り上げたビジネスモデルでもあるという。


だから事前にマーケットリサーチを徹底した。ターゲットはイギリスの若者である。彼らの3分の2は毎月の通話時間が43分以内であることを掴み、さらには1日6件までなら広告メールを送られても拒否反応を示さないことも調べ上げた。

入会時に性別、年齢、出身地だけでなく、好きな音楽や場所、趣味などを細かく聞き、好みに応じてメールを送っているのが奏功(前掲紙)

して、広告メールに対する有効回答率は29%もあるという。通常、DMに対するレスポンス率が1%あるかどうかになってきている現状から考えれば、これは破格の数字といえるだろう。


同社は今年10月までに10万人の会員を獲得することを目標としている。この10万人という数字にも意味がある。すなわちイギリス国内で出版されている雑誌の発行部数は最高でも15万部。仮に10万部の部数発行なら同国では10倍以内にランキングされる。だから10万人の会員を獲得できれば、イギリス10位以内のメディアを持っているのと同じ訴求力をスポンサーに対してアピールできることになる。


なるほど、よく考えられたビジネスモデルだと思う。特にうまいなと思うのはハンパな数字の使い方だ。冒頭にあげた43分の無料通話と217件の無料メールである。これなどはたとえば無料通話50分、メールなら200件まで(あるいは250件まで)がタダ、とキリのよい数字でアピールしてもよかったはずだ。


その方がユーザーには覚えてもらいやすいと考えるのが普通の感覚だろう。ところが、意外にそうではない可能性がある。まずユーザーについては「ほら、あの四十何分かただでしゃべれるサービスがあったじゃん。何だったっけ?」といった具合に、きっちりした数でないがために印象に残るケースも考えられる。正確には思い出せないけれど、それ故に漠然とした記憶だけは定着する。競合がいない段階では、これで十分だ。


一方でスポンサーに対しては、こうした中途半端な数字もリサーチの結果だと言い切ることで、同社に対する信頼感が醸成される可能性が高い。こうした展開がうまくいってのことだろう、同社はすでにコカ・コーラ、ナイキ、マイクロソフトと若者に食い込みたい大企業をスポンサーとして確保し、早くもイギリス以外での展開を決めている。


では、こうしたビジネスモデルの展開は日本でも可能だろうか? 実はこのモデルが成立するために大きな役割を果たしているのがSIMカード。ケータイ先進国の中ではおそらく日本だけが採用していないシステムである。ごく簡単にいうと、海外ではケータイ端末とキャリアは完全に分離している。だからユーザーはまず自分の好みの端末を選び、然る後にキャリアが販売しているSIMカードを購入し、このカードを自分の端末に差す。これでケータイを利用できるようになる。


ブリック社のモデルはこのSIMカードを使える国でなら、どこでも横展開が可能なモデルといえるだろう。仮に日本でもSIMカードを自由に使えるようになる時が来るとしたら、そのときは、この無料ケータイサービスをどこが最初に始めるのか。ケータイを取り巻くビジネスモデルはこれからも要注目である。



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