一文字単価を意識する


糸井重里なら167万円


昔むかし、糸井重里というコピーライターがいた。彼は西武百貨店の広告を担当していて、名コピーを連発していた。その極めつけが『おいしい生活』だ。伝説によればこのコピー一本になんと、1000万円ものギャラが支払われたという。一文字単価で考えれば167万円である。


我が身を振り返って考えると、いま一体どんな単価で仕事を受けていることになるのか。ざっと計算してみてもっとも高い単価が今のところ一文字100円ぐらいか。逆にもっとも安い仕事となると、あれま5円ぐらいにしかならない。5円ということは4000字書いても2万円である。とほほ。


以前書いていた広告コピーと、いま書いている原稿で単価が違うのは当たり前と言えばそうである。広告コピーは、その出来次第で商品の知名度が上がったり、たくさん売れたりする(と言われている)。仮に素晴らしいコピー一本で1億ぐらいの売上が見込めるなら、まあ10万ぐらいは払ってもらって罰は当たらないだろう。


一方情報誌や広報誌など直接売上には関係のない媒体に掲載される原稿となると、これは費用対効果を測ることがとても難しい。発注サイドからすれば、可能な限りコストは抑えたいという意識が働いて当然である。


一般的に販促経費は売上見込みの3%ぐらいで計上されるから、1億なら300万。それでポスターやパンフレットをデザインして印刷してと考えていけば10万ぐらいははまあ妥当な線ではないか。


という計算が成り立つなら、冒頭の西武百貨店などは年間キャンペーンのスローガンである。年商ベースで考えればコピー一本とはいえその影響は何百億にもなる(かもしれない)。それぐらい重要なコピーなんだから1000万円ぐらいもらって当然である。印刷ブローカーに務めていた頃、そんなロジックでクライアントを説得せよと教わった記憶がある。


ところがバブルがはじけ、広告特にコピーに対する期待値が下がり、一方で本当にコピー一本でそんなに簡単にものが売れるのかといった極めてまっとうな不信感がクライアントサイドで高まった結果、コピー料もどんどん下がっていった。そしてネット時代に突入した今、コピー料も原稿代も暴落傾向にある。


何しろネットは、ダメだったらすぐに書き換えれば良いのである。ということは予め言葉に吟味が尽くされることもない。もちろんあまりにいい加減な言葉ははねられるだろうけれど、それでもとにかく書いてしまえば良いのだ。という案配で誰もがコピーもどきを書くようになれば、そのありがたみも自然と失われていくだろう。原稿代然りである。


大昔のように原稿用紙にコリコリと手書きで文字を書き連ねていけば、そこには明らかに労力をかけた痕跡が見て取れる。「これだけの文字を書くのはさぞや大変だったでしょう。ご苦労よくわかります。だから、これだけの原稿代をお支払いしますね」的な心情が発注者側にいささかでもあったのではないか。


ところがいまでは文字はすべてデジタルデータと化している。本当はいくらデータとはいえキーボードをパタパタと叩かねば文章は紡ぎだされないのだが、原稿用紙&手書き仕事から醸し出されるアナログチックなご苦労感はない。データには表情も個性もないのだ。ありがたみも薄れて当然なのかもしれない。


しかしである。


ネット時代こそテキスト復権を叫ぶべきではないか。ネットのメインコンテンツは、やはりテキストだ。もちろん画像もある、音もある、これからは映像も出てくるだろう。でも、コミュニケーションのメディアとして出し手受け手ともにもっとも手軽に扱えるのはテキストだ。


確かにかつてのようにコピー一本何百万円という時代は、もう来ないかもしれない。でも何かを伝えるためのツールとしてのテキストの重要性は変わらない。だから書き手の意識としては、一文字単価を頭のどこかにいつも置いておくことが必要なんじゃないだろうか。


手書き時代に比べれば、一文字書くための労力は大幅に軽減されているのだ。だからつい書き飛ばしてしまうこともある。だからといっていつも書き飛ばしていては、いつまで経っても一文字単価は上がらない。


お一人様が売上を上げる方法も、やはり単価×本数の原理から逃れることはできないわけで、本数には物理的な制約があるのだから、ここはやはり単価を上げていくしかない。そのためには一文字の単価を意識して、ていねいに書くことが必要だと思う。


お一人様仕事術、その肆
『お一人様は、単価を意識して仕事をすべし』

昨日のI/O

In:
関西福祉科学大学インタビュー
Out:
メルマガ
K-OPT情報誌原稿


メルマガ最新号よりのマーケティングヒント

「工程を替えてみる」
http://blog.mag2.com/m/log/0000190025/
よろしければ、こちらも。

□InsightNow最新エントリー
「携帯メーカーは、何社生き残れるか?」
http://www.insightnow.jp/article/946

昨日の稽古: