対価起点思考


一ヶ月5000円


大手フィットネスクラブの約半額の月会費を売り物に支持を集めているのがジョイフィット。北海道帯広市に本拠地を置くフィットネスチェーンである。最近はカーブス系の30分コンビニフィットネスが勢力を伸ばしつつある中で、このジョイフィットはいわゆる旧来型フィットネスであるにもかかわらず急成長している。


急成長している理由はおそらく、対価起点思考にある。


すでに全国で27店舗を展開し、この3、4月の二ヶ月でさらに4店舗出店するという(日経MJ新聞2月18日付)。本格的な店舗展開に乗り出したのが2002年からなので、5年で約30店舗の出店ペース、かなりな急成長ぶりといえるだろう。ジョイフィットは旧来型フィットネスクラブ、カーブスタイプのクラブのいずれに対しても強みがある。強みはいくつかあるが、まず一番は価格設定だ。


5000円というのはカーブス系とほぼ同じ設定。この価格で従来のマシン&スタジオタイプのフィットネスができることは、ユーザーにとっては魅力だろう。なぜならカーブス系は確かに新しい魅力を提供しているが、カーブスに通っているユーザーの中には本当なら旧来型フィットネスに通いたい人たちも混ざっていると考えられるからだ。


加えてジョイフィットは後発だけに、従来のフィットネスクラブに対するユーザーの『不』をうまく解消している。


旧来型フィットネスクラブに対する『不』満は、大きく分けて二つある。一つには料金に割高感があったこと。もう一つが好きな時間になかなかうまく利用できないこと。こうリストアップしてみると、実はカーブス系もこの『不』をうまく解消して人気を集めてきたことがわかる。すなわち料金は5000円と安く設定し、サーキットトレーニング形式とすることでいつでも待たずにトレーニングできるといった案配だ。


さらに女性オンリーであったり、買い物帰りに気軽に立ち寄れる立地であったりのメリットを付加することでカーブスは伸びて来た。ここに実は盲点があったのだ。すなわち、確かにカーブスは旧タイプのフィットネスクラブの『不』をうまく解消し、新たなメリットも提供してくれてはいる。が、本格的にトレーニングしたりあるいはスタジオ系のエクササイズをやりたい人もいる。ただし彼らはそれを叶えてくれる場所がないからカーブスに通っていた。


旧来型フィットネスクラブに対して不満を持つ層をうまくすくいあげているだけでなく、とりあえずカーブスで我慢している層もこのジョイフィットは拾い上げているのではないだろうか。マーケティング的に見ればポジショニングが極めてうまいということになる。旧来型ともカーブスタイプとも異なるポジションを確保しているのがジョイフィットである。


では、なぜジョイフィットは会費5000円で採算が取れるのに、他のフィットネスクラブはここまで価格を下げることができないのか。決定的なポイントが一つある。ジョイフィットはプールを省いているのだ。フィットネスクラブのイニシャルコスト、ランニングコストに大きく響くのがプールの存在である。そこでプールを省略することでジョイフィットはコストを抑えた。


さらには人件費をカットする工夫も凝らしている。フィットネスクラブと言えばフロントがあって、そこで受付をしロッカーのカギをもらう。この「クラブ」感も一つのアピールポイントになっているが、フロントに人を置くと人件費がかかる。ここを割り切ってICカードによる自動入退館システムに替えた。


これでプールを維持する水道代、燃料代に人件費といった固定費を大幅に抑えることに成功している。一方で集客力のあるスタジオプログラムは充実させ、可能な限り希望するプログラムを選べる体制を取っている。


このジョイフィットはおそらく、すべての発想を「ユーザーは月会費をいくらにすれば、自社を選んでくれるか」という視点から考えているはずだ。すなわちユーザーにとっての価値/対価バランスをまず前提において、そこから設備の有り様を詰めていったのではないだろうか。これが対価起点思考だ。


この逆をやってきたのが旧来型フィットネスではないか。つまりフィットネスクラブにはジムがあって、スタジオも二面は必要で、プールもなければきちんとしたフィットネスクラブとはいえない。もちろんフロントはきちんと高級感を醸し出して、といった具合に発想する。そして必要な設備を揃えるためのコストを積み重ねて行き、コストに対して採算の合う会費を設定する。ジョイフィットの対価起点思考は、この真逆を行く。


ユーザーに提供する価値は、すなわち旧来型フィットネスクラブに対する『不』の解消である。一方でその対価は、旧来型フィットネスクラブに対して十二分な競争力を持つラインに設定する。ある意味、勝って当たり前ともいえる。


同社は今後3年で100店舗体制を目指すという。カーブス系コンビニフィットネスとうまく棲み分けることができるのかどうか。今後の成長ぶりは要注意だ。





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