お墓からブログまで


2007年4862億円、02年からの伸び率が38%


葬儀マーケットである。このマーケットについては、ほぼ確定した未来予測図がある。つまり、今後少なくとも30年ぐらいの間は顧客(正確には葬儀を出すのは家族なので、実際の顧客とはいえないかもしれないが)が右肩上がりで増えていく。


日本のマーケットといえばたいていが、これからは少子高齢化で縮んでいくわけで、そんな中でほぼ間違いなく成長を期待できる数少ないカテゴリーがこの葬儀マーケットである。

死亡者数は今後も増え続け2030年には160万人に迫る見通し。ただ高齢の単身世帯の増加が足かせになりそうだ(日経産業新聞2008年4月9日付け1面)。


こうした有望マーケットをめざとい人たちが放っておくわけがなく、葬儀ベンチャーが何社か創立されていたり、式場ビジネスにゼネコンが手を出したりしている。個人的にも昨年、自分が喪主となって葬式を出してみて痛感したことがある。それはまだまだ葬儀費用は不明瞭だということだ。頼んだのは知り合いを通じた伝手のあるベンチャー系だったけれども、最終的な価格説明には今ひとつ明確さを欠いていた。


参列してくれた親族からは「ちょっとサービスが至らないんじゃないの」といった小言を頂戴したりもした。葬式を出したのが滋賀県の田舎だったので、そうした旧式の葬儀になれた人の目から見れば、葬儀の品質はいま一歩という評価になったのかもしれない。ただここについては意見の分かれるところで、少なくとも私自身がサービスについて特に不満を感じることはなかった。おそらく私より若い参列者も似たような印象だったのではないだろうか。


ともかく今後10年とか20年のスパンで考えれば、葬儀のクォリティを気にする人の割合は減っていくものと思われる。となればサービス力で老舗に劣るベンチャー系葬儀企業にも十分に勝機はある。では、これから葬儀ビジネスを手がける企業はどこで差別化を図っていけばよいだろうか。


KFSは生前の関係作りだと思う。


なぜなら高齢者の単身世帯が増えていくからだ。高齢者が独り暮らしをしていてなくなった場合、葬儀はどうなるだろうか。家族に連絡がつく場合は、もちろん家族が執り行うことになる。しかし万が一、連絡が取れなかったらどうなるか。詳しくは知らないが、もしかしたら無縁仏として処理されるのかもしれない。そうなるとビジネスとしての葬儀は成立しない。


ここはやはり生前から何らかの関係を作っておいて「もし、自分に万が一のことがあった場合には、葬儀は○○社で行なってほしい」というような遺言を残してもらいたい。この遺言があれば仮に葬儀を家族が仕切りことになっても、まず間違いなく受注できる。ただし、自分の死んだ後のことを生きているから考えるのは、あまり喜ばしいものではない。だから、どんな関係を生前から作っておけるかが重要なのだ。


そこで考えられるのが、(かなり飛躍があるけれど)一つにはSNSだろう。団塊世代向けを中心に、今の60歳台、50歳台を対象としたSNSができつつある。こうしたSNSで葬儀について考えるフォーラムを作ったり、さまざまなサービスをアピールすることが一案である。自分が死んだ後のことを考えるのはあまり楽しくないが、自分がいなくなった後のまわりの人のことを考えておくのは一種のエチケット、といった切り口ならあるかもしれない。


あるいはブログを切り口としたサービスもあり得るかもしれない。『Life is beautiful』の中島智さんが書いていたけれども、ブロガーの中にはそろそろ、自分が死んだ後自分のブログがどうなるのかを気にする人が出てきつつある。あるいはブログに限らずネット上に写真をアップしている人だって、自分の死後、アップロードした写真がどうなるのかを気にする人はいておかしくないだろう。


そうした人たちに対して、ブログや写真の永代保存と葬儀などをセットでサービスする。『お墓からブログまで』サービスである。これは意外に潜在ニーズがあると思うがどうだろうか。


私自身は「死」は、まだしばらくは先のことだと思っているけれども、自分が書き溜めて来たブログは何かのカタチで残ってほしいとは思う。毎日いろんなことを考え、考えた中ではもっともまともなことをせっせと綴って来たのがブログである。立派な石造りのお墓なんかいらないから、ブログデータを永久保存します、なんてサービスがあれば使う可能性は高い。


身内の死を経験してわかったことがある。それは病院と葬儀業者の強いつながりだ。救急で運ばれた病院へ駆けつけたとき、残念ながら父親はすでに事切れていた。そこで病院からいわれたのが「心中お察ししますが、仏様はできるかぎり早くお引き取りください」である。加えて「もし、ご存知の葬儀屋さんがなければ紹介します」といったひと言だった。


どのタイミングで病院から連絡が入ることになっているのかは知らないが、有力な葬儀屋が病院というチャネルを抑えていることは間違いないようだ。こうしたチャネルはおそらく長年の付き合いによって形成されて来たものだろうから、ここに新規の葬儀ベンチャーが突っ込んでいくことは得策ではない。


となると、やはり故人との生前の関係作りが効いてくると思う。



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