株式講演会の収支


全15段なら2040万円


日本経済新聞朝刊、全国版の広告正規料金である。今朝の14面にはでかでかと『株式講演会』の開催告知広告が掲載されていた。この講演会は入場無料である。3週連続で開催される講演会については、資料・教材も含めて一切無料がうたわれている。なかなか気前の良い講演会ではないか。


場所は京都のど真ん中、四条烏丸にあるシルクホールだ。このホールを借りるのにもタダ、というわけには当然いかないはずで、そのコストもこの講演会を開催する企業が負担してくれているようだ。


そして、この講習会で教えてくれるのが『パソコンは一切使わない株の学習法』だという。実際の学習は翌週から開かれる株の学習教室で行なわれるようだが、この講習会でもその触りぐらいは教えてもらえるのだろう。


この講演会の新聞広告を仮に、日経一紙に一回だけ出稿したとすれば、そのコストは約2000万円。これにシルクホールの使用料もざっと込みとしておこう。とすれば、当然この講演会を主催する企業は何らかの手段で、この2000万円を回収しなければならない。どうやって回収するのかといえば、こちらは無料ではない『株の学習教室』でとなるわけだ。


その学習教室の内容はもちろん、この講演会の内容についても、とりあえずは株式投資をする上で何らかの有用性のあるものだとしよう。もう少しだけ突っ込んでみるなら、おそらくはパソコンを一切使わずとも株式投資ができ、しかもそれなりに儲かる手法を教えてくれるのだと仮定してみる。


ここで一つ、決定的な疑問がわき起こることをどうしても押さえられない。


すなわち、それなりに儲かる方法を知っているのなら、なぜ日経の広告に2000万円も突っ込んでいないで、その資金で自分たちが投資しないのか、という疑問だ。この講演会を主催しているのが税金で運営されている団体であったり、あるいはまったくのボランティアであるならば、わざわざ高いコストをかけて株式投資の教育をただでしてくれるというのもわからないではない。


しかし、この講演会を主催しているのは株式会社である。上場企業ではないようだが、それでも株式会社である以上、コストをかけて企業活動をすればかけたコスト以上の収益を得る必要がある。そうじゃないと、企業活動はたちまちにして立ち居かなくなる。


ということは、先の疑問に対して考えられる答は次の二つである。


一つは、2000万円のコストをかけて広告出稿したとしても、そのコストを回収できるだけの売り物を用意しているから、ということになるだろう。シルクホールの客席数が760名となっているから、仮に満席になるとして一人あたり平均で5万円ぐらいの売上が立てば、人件費など付帯経費を含めてとりあえずトントンぐらいには持っていける。


もっとも、それぐらいでは自社で自信を持っている(だから売り物にしようとしている)投資法で2000万を株式投資に突っ込んで得られる利益を上回ることができないはずだ。仮に株式投資で10倍儲ける方法を教えてくれるなら、この講演会からの上がりも、2000万円×10倍が最低目標となる。つまり2億円だ。これなら講演会が満席だったとして、一人当たりざっと40万円である。


実際には760名も集まるとは考えられないので、これが半数だったら一人当たりは80万となる。万が一100名ぐらいしか来場者がなかったら、全員からきっちり200万円ぐらいの利益を得なければ、この企業は回らなくなる可能性がある。株の投資法を学ぶためのコストとしては、かなりの高額だと思う。


もう一つ考えられる答としては、2000万円の投資対効果をシビアに判断したとき、自社で持っているノウハウに従って株式投資をするよりも、無料講演会に参加する人たちに何かを買ってもらった方がリターンが高いというケースだ。この疑問は投資用マンションの購入を勧めてくれる電話を受けるたびに感じる疑問と同じである。そんなに、確実に儲かるのやったら、人に奨めてないでなんで自分たちで投資しないの? そうは思いませんか。


もしかしたら、第三の答が本当はあって、私のような素人には考えもつかないような深遠な理論をもって経営をされているのかもしれないが(だからパソコンも一切使わずに済むのかもしれないが)、それならその経営理論を売り物に経営指導でもされた方がよいのではないだろうか。


なかなか不思議な新聞広告だった。そして、この広告を見て以前「近未来通信」の広告を見たときに感じたのと同じ印象を持った。要するに「そんな、うまい話がただで転がっているわけないじゃん」である。もう一つおまけに言っておくなら、この手の広告をあっさりと掲載してしまう日本経済新聞さんの台所事情も、もしかして相当に苦しいのではないかなどと余計なことまで思ってしまった。





昨日のI/O

In:
くらたまなぶ氏インタビュー
Out:
アイスタイル・吉松社長インタビューメモ


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昨日の稽古:

・懸垂、カーツ式