排出量取引制度が導入されたとき


3500億円規模の新市場がある(正確にいうと生まれる可能性がある)


もし排出権取引制度が日本で導入されれば、それだけの規模の市場が生まれるらしい。ちなみにこれぐらいの規模のマーケットとして他に何があるかといえば。ちょっとググってみるとプリペイドマネーの2006年度の市場規模がちょうど3500億円、ネット広告代理の同年度市場規模が3200億円といったところ。これぐらいの規模のマーケットが極端な話、一夜にして生まれる可能性があることになる。


排出権取引とは、まず政府が企業に対してCO2の排出規制をかける。要するに、御社はこれ以上のCO2を出してはいけませんという形で、一定量の枠をはめるわけだ。


ところがはめられた規制値をすべての企業がクリアできるとは限らない。余裕でクリアする企業があれば、どうがんばっても規制値以上排出してしまう企業もあるだろう。そこで取引が成立する。つまり規制値以下の排出量に抑えた企業は、そのギャップ分を市場で売りに出すことができる。これをクリアできそうにない企業が買い取る。取引が成立する、すなわちマーケットができる。


この市場がうまく機能すれば、日本トータルで考えれば排出目標を達成できる可能性がある。これが決定的に重要なポイントだ。何しろ「京都」の名前が冠となっている京都議定書で合意した削減目標を、日本自らが守れないのでは国際的な示しが付かない。にも関わらず現状はどうか。


90年度比6%減が目標であるのに対して、現状は逆に7%増である。よほど思い切った手段をとらない限り目標達成は不可能である。そこでいよいよ実行期間に入ってしまった今年から政府は、あの手この手の施策を打ってくる可能性がある。その一つとして注目されているのが、この排出権取引ということになる。


もちろん、鉄鋼業界や電力業界などこうした規制の影響を真っ先に受けそうな業界団体は声を大にして反対している。京都議定書の成立過程を振りかえってみれば、そもそもが日本にとっては相当に厳しい条件だったのだ。しかも産業界全体としては、地道に削減努力を重ねて来ている。この間に排出量を増やしているのはオフィスと家庭部門である。だから産業界にこれ以上の規制をかけるな、というのが大勢の意見だ。


ここで状況を考えてみると何がどう見えてくるか。まず、もうすぐサミットが開催される。このサミットを福田首相は環境サミットとしてアピールし、点数を稼ぎたいと考えているらしい。であるなら、環境サミットでリーダーシップをとるためには、足元の目標さえ達成できないようではお話しにならない。まず京都議定書で決めた目標は、ちゃんと守りますよと。実際に目標達成するメドもほら、ちゃんと立っていますから、というところを見せない限り、誰も日本のいうことなど聞くわけがない。


とはいえいまの自民党の状況を考えれば、家庭部門に対していきなりな規制をかけたり、環境税のようなもの(具体的には消費税の税率アップということになるのだろうけれど)をかけることも無理である。そんなことをすればただでさえ低い支持率の底が割れてしまい、そもそも政権自体がもたない。


となると、もっとも取りやすい選択肢は産業界に対して規制をかけることになる。しかも、排出権取引なら新たなマーケットが生まれて結構なことじゃないか、といった流れに世論をリードできる可能性もなくはない。


こうした流れを読んだかのようなアクションが起こっている。たとえば大和ハウス工業は自家発電機大手で経営不信に陥っていたエネサーブを100億円弱を投じて買収した。

店舗やオフィスビルが出すCO2は90年度比で4割も増え、議定書の目標達成に削減は不可欠。大和ハウスでは省エネ支援事業は10年度までに7割伸びると見込む。国内建設投資がしぼむなか、省エネを切り口とした成長戦略を描く(日経産業新聞4月24日付1面)


他にも日清製粉グループの取り組みや、いち早く代替フロン処理を手がけて年商60億円規模のビジネスを創りだしたイオネスケミカル社などの事例が記事では紹介されていた。


さて、ここで注意すべきは、こうした流れをよそ事と見たり、規模の小さい当社には関係のないことだと考えていると思わぬしっぺ返しを食らう可能性がある、ということだろう。たとえ自社の規模は小さくとも、自社が関わるサプライチェーン全体でのCO2排出総量が問題となる可能性はある。そのときに上流から、あるいは下流からさえもCO2削減に努力しない企業は切り捨てられるリスクがある。


さらにもう少し先の未来を考えるなら、今後10年単位のスパンでみれば、CO2削減の動きがマイナス方向にシフトする可能性はほぼゼロである。すなわちCO2削減は、どこかのタイミングですべての企業が必ず取り組むべき課題として浮上してくる。これぐらいの認識が必要だと思う。



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