経営者の文章
- 作者: 鈴木幸一
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2003/12/11
- メディア: 単行本
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『日々酔狂』
IIJ社長、鈴木幸一さんが書かれた本がある。IIJ社は日本で初めて商用インターネットプロバイダー事業に取り組んだ企業であり、今年2月に取材をさせていただいた。取材前に参考資料をいろいろ当たっている中で、たどり着いたのがこの一冊である。
取材内容を組み立てるためにどうしても欠かせないのが、このように資料を探して読み込む作業だ。幸いこの作業はインターネットのおかげで飛躍的に便利になった。どんな本を出されているのかが瞬時にしてわかるだけでなく、Amazonを使えば古本まで含めて手に入れることができる。
仮にAmazonでは時間的に間に合いそうになければ、リアルな書店のサイトで店頭在庫を調べることができる。冒頭の本も実はAmazonでは在庫がなく、新宿の紀伊國屋に在庫があることを掴んでいたので、そこまで出向いて手に入れた。
ネットを使って手に入るのは本だけじゃない。いろんなネット媒体でインタビューに答えられたときのテキストも、たいていは手に入る。実はこちらの方が価値が高かったりする。ネット媒体のインタビューは「この人には、これを聞かなきゃ」というポイントがドンピシャに絞り込まれたものが多く、また雑誌のように紙面制限がないからロングインタビューがそのまま掲載されることも多い。参考になる資料が転がっているケースがよくある。
鈴木社長へのインタビューに際しても、ネットにあったインタビュー記事がかなり参考になった。その上で、それでもご自分で書かれた文章をぜひ読んでおきたいと思った。たまたま取材時間の関係で前日に東京入りすることもあり、新宿まで足を伸ばしたのだ。
インタビュー前日で時間にゆとりがないために、ポイントになる部分だけメモを取りながら流し読みをした。一読して、なんか妙な文章だなという印象が残った。元々はIIJ社がお客様向けに発行している小冊子のコラムとして書かれた文章である。だから歳時記的な要素、ご自身の話、そして折々のタイミングにふさわしいビジネスの話題が渾然一体となって一本のコラム仕立てにまとめられている。いわば三つの内容がワンコラムに盛りこまれているのだ。とはいえ妙さは、それが原因ではない。
ビジネス関係のテーマは、基本的にインターネットと通信について。当たり前のことだ。そして四季折々のさまざまな土地の描写が入り、ときにご自身のお酒の上でのおもしろ話が挟み込まれている。お客様向けに、いまビジネスはこんな感じですよ、経営者として私はこんなふうに考えていますよ、その私はこうやって毎日を何とか頑張っていますよという等身大の鈴木社長が伝わってくる文章である。
サラッと読める。取材前にそんな読み方をして役に立ったことはもちろんだが、朝湯の楽しみもこの本で教えてもらった。そして、朝湯につかりながら再読して、虜になってしまったのだ。じっくり読むと、実に妙な雰囲気のある文章である。その趣が自分のツボにはまったということなのだろう。
全編を通じて、何ということのない風景の描写であったり、ご自分のことについての表現が、とてもしっくりとわかりそうでいて、その先にまだいまの私にはわかることのできない世界がある。そうした領域があることだけは、はっきりとわかるのだけれど、それがどんなものなのかを理解することができなもどかしさがあるのだ。でありながら、入り口は極めて低くわかりやすく、やさしく誘ってくれる。
以前、自分が書く文章の目標として、井上ひさし氏の「むずかしいことをやさしく、やさしいことを深く、深いことを面白く」をあげた(→ http://d.hatena.ne.jp/atutake/20060827/1156632839)。鈴木社長の文章もこうした構造になっているのではないだろうか。そして、鈴木社長が書かれている本当の「むずかしいこと」は、日本で初めてインターネットプロバイダーを立ち上げるという先駆者的経営者だからこそ、骨の髄まで味あわされた数々の難題がもたらしたものなのだろう。
だが、それを苦しかったとか、大変だったと書いても読み手にはまったく伝わらない。そこはかとないユーモアで包み込んで、それでいてどうしてもにじみ出る何かが伝わってくる。そんなテキストになっているのだと思う。
結局いまでは朝湯のたびに、この本を持って入り、何回も読み直している。そして何回読み直しても、同じコラムがもっとも迫ってくる。もし、このエントリーを読まれて鈴木幸一氏の『日々酔狂』に興味を持たれた方がおられれば、ぜひこれを読んで、ご自分はどのコラムにもっともひかれたか、それはなぜかを少し考えてみて、その理由をこのブログのコメント欄にでも残していただけると幸いだ。
昨日のI/O
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